第9話 続く世界に君はいない

 それから、時間は飛ぶように過ぎた。


 受験などに憂うことなく命と楽しむ時間は本当に一瞬だった。


 楽しい時間だった。


 楽しい時間、それが短かった部分俺は濃い日々を過ごした。


 そんな濃い日々に慣れてきて、高校生活も始まり、そろそろ元の日常に戻ってきた時に。




 学校から帰りそのまま病院に向かって、病室に入った。


 命は、一目見て亡くなっていることが分かった。


 机には封をされた手紙が置いてあった。


 手紙の表面には初めてみた命の字で永井有様、と大きく書いてあった。


 手紙の封を切って中を見た。


『ねえ、有。

 私が、看護師さんに、家族との時間が終わっても君がここから出てくるまでは病室の外で待って、私は置いとくように伝えといたよ。おかげで多分有は今、私の死体と対面してるんじゃないかな。

 有は、私が有に意味を見つけさせてあげたと思ってるかもしれないけど、私が先に有に意味を見つけてもらったからできたことだから、過去の自分に感謝してね。

 それで、過去の自分にはそれだけの意味があったってことなんだから、今だとか未来の自分にも自信を持って生活しないでね。

 有と最後に話した時にはもう私が直ぐ死ぬことはわかってたよ。それで、有と話すのが最後になることも、当然。だから私がずっと言ってて、心の底から思っていることを伝えたけど、君はもしかしたらこの手紙を読んだ後病院の屋上に向かうかもしれないからそのことも看護師さんに伝えておいたよ。多分今は屋上は封鎖されてるよ。

 有は今、そんなに俺の信用がないのかよーとか思っただろうけど、君が去年の春やろうとしたこと、私はちゃんと覚えてるから、信用がないのは仕方ないことだよ。

 じゃあ、最後にもう一つだけ言おうかな。

 有と一緒に過ごせて、いろいろあったけどずっと楽しかったよ。結果的に、私は自分の人生に意味を見つけられたし、自分の存在価値を見つけられたから、人生だって捨てたもんじゃないかもよ。』


 君が亡くなったと知っても不思議と落ち着いていたのは、もっと取り乱し得る要素のこの手紙があると薄々察知していたからかもしれない。


 何度もその手紙を読み返していると、手紙の最後の余白がかなり広いことに気が付いて、アンサーレターのようなものでも書いてやろうかと筆記具を手に取った。


 そして余白のどこから書き始めようかと思っていると、文字を消した跡を見つけたので集中して見た。


『やり残したことたくさんあったなあ(泣)』


 ……そりゃあ消すわ、見なければよかった。見たら俺は後悔してしまうと命も分かっていたのだろう。


 俺も命と一度も夜の関係に発展することなく命を亡くしたことが悔しくなってきて、他にも俺と命がやり残したことを探し始めてしまった。


 すると涙が止まらなくなり、手に持った筆記具も力なく落としてしまった。


 ――そのあと、俺は看護師さんが入ってきてそろそろ帰らないと遺体を運び出せない、と話す言葉を聞き、この公園に戻って一夜中泣き続けた。


 続く世界に君はいない。


 その事実が、俺を打ちのめした。

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