第2話 出会い
『こんばんは』
『君、泣きそうな顔してるね』
俺が普通に挨拶をしただけで、君はそう言った。
俺は自分について見通されたことでより彼女に興味が湧いた。
『よくわかったね、俺のこと』
『私は普通よりは人間観察が得意なんだよ』
君はそう言って微笑した気がする。
俺はその笑顔を見て、虚しいと思った。だって君の笑顔は世界を諦めていたように見えたから。
俺みたいに意味を探すでもなく、意味を疑うことなく純粋に暮らすでもなく。まるで世界に失望し、信じることを諦めていたようだった。
諦めると楽だけど、諦めるのは悲しい。だから俺は、その目が気になって、庇護したくなって、会話を続けた。
『世界って、残酷だよね』
君に何があったのか、当時の俺は全く分かっていなかった。
けれど、世界を諦める相応のことが起こったのなら、世界の残酷さに納得してもらえるのではないかと思った。
『これが世界だから。私たちがいくら残酷って思ってたって変わらない』
『それは諦観が過ぎるんじゃないか』
君はあの時、俺が思ったより何倍も世界に失望していた。
俺の浅はかな考えに後悔しながら、会話を続ける。
『それに、この世界は私にとってもう他人。興味なくなっちゃった』
君は世界に興味はないといったけど、君が俺に話しかけてくれたから、俺は世界に意味を探そうと思えた。
『そんな悲しい考え方……』
『悲しい……?』
『希望がないのは辛いでしょ』
何もわからずに生きていことは辛いと思った。だから訊いた。
『どうせ死ぬってわかってるから、直ぐに終われるってわかってるから、全く辛くないよ』
どうせ死ぬ。
その言葉は、俺の頭の中で考えた世界の意味を全て無に帰した。皆どうせ死ぬ、いつか終わるんだから必死に生きる意味はないと。
『どうせ死ぬ、ってどういう……?』
ここから先を訊くのは失礼だと思った。
だけれど、俺の考え方を根本から変えた、世界に意味なんか必要ないとした人に何があったのか、知りたかった。
『私、いずれは死に至る病気だから。まだ原因不明だけど、確実に死ぬんだよ』
俺と同年代に見える君が背負うには余りに重すぎる運命。
こんな経験をしたら、考え方も変わるだろうし、言葉の説得力も強まるに決まっている。
『辛くはないのか?』
『最初はね。今はもう、さっき言った通り辛くない』
そういって君は笑った。
それは、本当にすべてを諦めたのなら作れないだろう、悲しい笑顔だった。
君は人間観察は得意でも、自分の表情を制御することはそれほど得意ではないようだった。
『嘘だね』
『え?』
『君の表情、本当にすべてを諦めてるならこんなに感情が出ないと思うよ』
俺がそういうと、君は虚を突かれたような表情をした。そして瞬く間にその顔を歪めながら、ゆっくりと口を開く。
『君は、わかったようなことを言うんだね』
『君も大して変わらないけどね』
今度は驚いたような顔に変わる。
『君、面白いね』
『君こそ』
一度会話が止まる。
しばらくの静寂の後、君が動いた。
『君、名前は?』
『
『
俺はフルネームで答えたのに、君は恐らく下の名前だけで、短く返す。
『命か、悲しいことに似合った名前だね』
『私の命がもうすぐ終わるからってこと? 君も似合ってるね』
『俺に未来が有るとでも?』
君と比べたら未来が有るということに間違いはないのかもしれないが、その時俺は自分の未来に真に絶望していた。まるで、君を亡くした今みたいに。
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