続く世界に君はいない
ナナシリア
序章 続く世界に君がいた
第1話 別れ
君の最期は呆気なかった。
俺が学校にいる間に、安らかな表情をして亡くなったらしい。
俺も、亡くなった時の君の表情は穴が開くほど見つめたけれど、確かに君の顔には安らぎを感じた。
俺が君に安らぎを与えられていたのなら、良かった。
君が俺に口癖のようにいつも話した言葉は俺の印象の中にハッキリと残っている。
あれほどまでにいつも言われて、俺の人生を左右してくれた、君の言葉だから。忘れるはずもない。
君と俺が最期に話したのは、昨日学校が終わった後だった。
学校という非常にくだらない出来事のせいで君が亡くなる瞬間に居合わせることができなかったのは悔しい。
でも最後に会った時にもう君は自らの死を見通していたのかもしれない。
君があの時俺に言った言葉は、俺と君が会うのが最後だと分かったような言葉だったから。
『再三言うけど――私がいなくなっても、君の世界は続くよ。いいや、続けてね。勝手に終わらせることは、あの世から見守ってる私が許さないから』
君は本当にすごい。
俺の心を的確に読み当ててくれた。
君が死んでいくのを追って俺は死のうとしていた。
誰にも見せなかった俺を曝け出せる唯一の人が君だった。
君が亡くなってちょうど一か月。
君が最期に遺した言葉は、間違いなく君の最期の願いだった。
俺は君のいない世界に意味を見つけられていなかったけど、君が言ったからこの一か月はこの世界の意味を探している。
俺は、君の願いを叶える一歩目として、君と最初に出会った公園へ向かい、君の幻影と決別することにした。
君の記憶をたどって、それを忘れ去る。そうして、君が願うように俺の世界を続ける。天国の君に許されるために。
公園について、あの日君と出逢った時の記憶を思い出した。
――確か、君と初めて出会った夜、君は公園の中心に位置する噴水の、広い縁。その縁が広く、腰かけられるようになったその場所に君は座っていた。
その公園に行ったのは、なんでもない理由だった。
俺が通っていた塾はその場所に近かった。塾で自分とそれに対する世界の意味を考えることになった俺は、自転車で走りまわった結果その公園についたのだった。
最初に君を見かけたときは、話しかけるつもりは全くなかった。
自分の顔が涙で濡れていて恥ずかしかったし、何よりよく知らない人だ。
でも俺は話しかけた、彼女に俺と同じ気配を感じたから。
多分、それは俺の人生の分かれ目となり得る出来事だったのだろう。こうして俺は今もこの地にこの足で立っているのだから。
君に話しかけることを決めてから君に実際に話しかけるまで、しばらくの逡巡があった。
それは夜道で知らない人に話しかけることへの恐怖。……とかでは全然なく、単に君が俺のことを不審者だと思わないか心配しただけだ。
……今となって考えてみれば当時の俺は制服だったので大人の不審者と間違われることはなかったのかもしれない。
君の性格からして、不審者に話しかけられたとしても気にしなかったのかもしれないけれど。
とにかく、俺は君に興味を持って、話しかけに行った。
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