わたしは平穏無事な生活を送りたいのよ!


 あのお湯やら塩やらナンやらカレーやらが飛び交う戦争から数年後。

 わたしの生活は劇的に変わった……わけでもなく前と同じ日常を送っている。

 人はそう簡単に変わらない。

 変わったとしたら、わたしは少し我儘を通せるようになったことくらいね。

 あと時折、ガーリックがわたしにカレーを持ってきたり、神装の特訓に付き合わせようとしてきたり。

 わたしは果実を採りに出かけようとする。


「お姉ちゃぁぁぁんん!!  私も!! 私も一緒に行きたいでありますぅぅぅ!!」


「メンマさん! 私をこんな身体に調教しておいて逃げようなんて酷いです! 今日も特訓行きますよ!」


 などと泣き言を口にするメンマはエルフの子どもに引き摺られていく。

 たははと微少を浮かべて、わたしは手を振って見送った。

 ひとりで籠を持って森へ出かけに行く。

 ミリアはハルナを連れて、本当にこの森から出て外の世界へと旅立っていった。

 自由だったわ。

 昔は憧れて、今はもうできないあの生き方。

 憧れるだけであって、やりたいとは思えないその気高さ。

 ミリアはエルフやダークエルフの村に収まるような娘じゃなかった。

 寂しくないといえば嘘になるわね。

 本当に……。本当にね……。

 生き方には憧れるし、寂しくないといえば嘘になるの。

 うん、だからね。


 明るい木漏れ日が差し込む森の中、一匹のエルフがわたしとゾンビを防壁にして魔物と対峙していた。

 ……だからなんで?

 わたしは盾にしてくるエルフに文句を垂れる。


「どうしていきなりわたしを盾にするのかな? ミリア」


「おれまで巻きこむなよ」


「再会の挨拶」


 ミリアはニヒヒと無邪気な笑みを浮かべた。

 というかなんでハルナも一緒に居るのよ。

 とりあえずわたしは魔物をカグツチで追い払った。

 少し雰囲気が落ち着いたミリアはわたしから手を放し、くるりと回る。


「思ったのよ。やっぱりキリシマのカグツチをここで腐らせるのって勿体ないじゃない? って」


「わたしは嫌よ。面倒くさい」


「ほらっ、またそういうことを言う」


 ミリアはわたしの頬を突いて弄んでくる。

 ……この子、なんというか逞しくなっていないかしら?

 それからミリアは後ろで手を組んで、見上げるようにわたしを覗いた。


「だからじっくりと外堀を埋めていくわ。そしてキリシマ、あんたをもっともっともっと我儘にして、外へ連れ出してやるんだから!」


「もう十分我儘よ。外に出たくないわよ!」


「諦めろ。こいつの我儘さらに強化されているから」


 わたしの肩に手を乗せて、諦めた顔で首を振ってくるハルナ。

 あなたちょっと、ツッコミしていたあの頃はどうしたのよ。

 というか外に行くとか面倒くさいわ。

 わたしは安心感のある生活を送っていたいだけなのよ。

 だから、だから!


「またよろしくね。キリシマ!」


 エルフのミリアと転生ダークエルフのわたし。

 異世界での再会はまた、奇妙な運命を記し続けるのだろう。

 けど、けど!

 顔が赤くなっていくのを感じながらも、わたしは叫ぶ。


「わたしは平穏無事な生活を送りたいのよ!」

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転生ダークエルフの奇妙な異世界記~きつねうどんVSマトンカレー~ メガ氷水 @megatextukaninn

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