一周回って仲良いわよね。エルフとダークエルフは


 ラオウさんは何も言わずに口を一文字に結ぶ。

 そのまま数秒ほど、わたしと目を合わせ続ける。

 そうしてラオウさんが下した決断は、ガーリックから手を放すことだった。


「ラオウ!」


 メラチャルさんが信じられないとでも言わんばかりに突っかかる。

 エルフとダークエルフ、両陣営から息を飲む声が聞こえる。

 ミリアは驚きで目を見開いて。

 メンマはなぜかドヤ顔で。

 ハルナはにんまりとした顔で。

 そしてラオウさんは腰に手を置いて豪快に笑いだした。


「まぁまぁ良いじゃねぇか! 今回の一番の功労者はキリシマだ! キリシマがカレーうどんを食べたいって言うなら、まぁ食わせてやろうじゃねぇか!」


「だがなラオウ――」


「それにっ、俺は自分で自分が情けねぇよ。俺の意固地が子どもを傷つけるなんて。しかも子どもに諭される形で気づかされるなんてよ。俺も焼きが回って来ちまったみてぇだ」


 ラオウさんはわたしの両脇に手を入れて立ち上がらせてきた。

 よろめくわたしにミリアとハルナが肩を貸してくれる。

 ラオウさんがこの場にいるすべての者に聞こえるほどの声を出す。


「この戦争は終わりだ! 帰ってカレーうどんとやらを食うぞッ!」


「「「「「「ウオオオオオオオオオォォォォ!!」」」」」」


 メラチャルさん以外のダークエルフたちが号令に続いた。

 唯一声を出さなかったメラチャルさんはラオウさんに苦笑を返していた。

 メンマに肩を貸してもらったガーリックが憎々しげに言ってくる。


「貴様どういうつもりだ。こんなことしたところで私の怨恨は消えんぞ」


 わたしは口元に指を当て、少し考えたふりをしてから言う。


「わたしは本当に平穏な、安心できる生活を送りたいだけよ。戦争だとか禍根だとか面倒くさいじゃない。それに、全ダークエルフがカレーを身体に入れるのよ?」


「……ふん。これで勝ったと思うなよ」


 顔を逸らして言っても説得力ないわよ。

 かくして全エルフとダークエルフを巻き込んだ戦争、きつねうどんVSマトンカレー戦争は終わりを告げる。

 カレーはエルフから。うどんはダークエルフから。

 世界樹であり精霊樹の近くに集まって、それぞれ持ち寄った料理で宴会を開く。

 目を合わせた途端またいがみ合いを始めていたけど、カレーを使った料理となるとあちらも妥協を許さないらしい。

 うどんにカレーを掛けること自体はめっちゃ嫌そうだったけど。

 そしてわたしたちは出来上がったカレーうどんを啜った。


「懐かしいわね、この味……。けどスパイスが効きすぎよね、これ」


「分かる、なんか違うよな。今度自作するか」


「カレーうどん……なにこれ美味しいじゃないの!」


「カレーとうどん。二つが組み合わさっただけなのになんて美味しさでありますか!!」


「はっ! やはりカレーが美味しいな。うどんはまぁまぁだ」


「なんだこの風味。うどんの触感とよく合うな」


 わたしが話したカレーうどんは、ガーリックとラオウさんからも概ね良い反応を貰えたようね。

 お互い死者を出さなかったことが、こうして歩み寄れるきっかけとなったのでしょう。

 カレーうどんのように。

 これからエルフとダークエルフは手を取り合って歩いていくのだろう。


「やはりカレーはナンだ! ナンこそ至高なのだ!」


「少し良いと思ってしまった俺は情けない! うどん! うどん! うどん!」


「はっ、やはりダークエルフとは分かり合えぬ! 今ここに再臨させてやろう! 我がゲート・オープン・ナンスローを!」


「うどんの底力見せてやるわエルフ共ォォ!!」


 ……前言撤回。

 そうよね。

 エルフはそもそもナンとご飯で対立していたのよね。

 ここで新たにうどんが入ってきても、敵の食べ物だからこうなるのは必然ね。

 ガーリックとラオウさんもそれぞれバトルに加勢しに行く。

 取り残されるわたしとミリアとメンマとハルナ。

 こっちに攻撃が飛んでこないのと実弾を使用していないのを見るに、もうただじゃれ合っているね。

 わたしはミリアの横顔を見て、ちょっと熱くなってくる頬を掻く。

 教え込む立場だと思っていたけど、最後に教えられたのはわたし。


「ミリア。……我儘って案外受け入れられるのね」


 ミリアは生意気そうに口元を歪め、指さしてくる。


「どうしたの、急に改まって」


「いや、今もこうして目の前でいい大人がくだらないことで争っているのを見ていたら」


 ハルナがにやにやとした顔でこっちを見てくる。

 ほんと顔がうるさいわね。

 ミリアはわたしの頭に手を伸ばして撫でてくる。


「大人が子どもで何が悪いのよ。大人だから我儘を言っちゃいけないって、その考え方自体がおかしいのよ」


「そうはいかないのが大人の意固地って奴」


 ラオウさんに言われてわたしも気づいた。

 わたしもただ、意固地になっていただけだって。

 何もかも面倒くさいって言葉を盾にして。

 今はただ、カレーうどんの美味しさを嚙み締めよう。


「カレー美味しい」


「うどんも中々よ?」


「どっちも美味しいでありますよ!!」


 近くで全面戦争をしているけど馬鹿みたいに平和ね。

 禍根とか絡んでいないのもあって。

 ラオウさんがエルフにお湯を注ぎながら言ってくる。


「おいキリシマ! カグツチ! カグツチ貸せ!」


「そこのご飯エルフ! 何ダークエルフと談笑している! 早く加勢せんか!」


 わたしとミリアは顔を見合わせる。

 お互いに息を吐いて、「「ハルナ」」と言葉を掛ける。

 反応したハルナに二人で戦争をしている両陣営を指さした。


「お前らがやればいいだろ」


「「めんどくさいわ」」


「めんどくさい女が増えるとか恐怖だわ。……ったく」


 ハルナは乱暴に自身の髪を掻きむしる。

 フォークを器に浮かばせて、晴れ裂けんばかりに叫ぶ。


「お前らどっちもどっちじゃねーか!」


 ……やっぱりツッコミはハルナに任せるのが一番ね。

 知らぬ存ぜぬ顔で、カレーうどんを食べながらわたしは思う。

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