終わってみればダークエルフ無双で終わったわ


 わたしとガーリックの戦いが終わったのを見計らったかのように、村のみんなが姿を現した。

 流石というべきね。

 ラオウさんとメラチャルさんに目立った外傷はないわ。

 あのテンションのまま、制圧って出来たってことでしょう。


 メンマも竹槍一本で立ち向かったわりには無傷。

 むしろ行きよりも清々しい顔というか、艶が出ているというか、元気になっていないかしら?

 そして何人か全裸になった女エルフが転がっている。

 ここは何も見なかったことにするのが一番ね。

 お互いのためにも。

 わたしはメンマに肩を貸してもらい、ガーリックの下へと歩いていく。

 ガーリックはミリアにグレイビーボートを取り上げられていたみたい。

 動けないはずなのに。

 それでも獰猛な野獣が如き、迫力ある敵意をわたし達ダークエルフに向けていた。

 追ってやってきたと思しきエルフが、続々とまた姿を現す。

 その手には拳銃。

 表情はというと、未だに戦意を捨てていないようね。

 面倒くさいわ。


「戦争は俺たちの勝ちだ!」


 ラオウさんはガーリックの手を力づくで掴んだ。

 ……痛そう。

 あれ後日あざが出来るわね。

 風船が破裂するかの如く、他のダークエルフたちも口々に勝どきをあげていった。


「やれっ! 貴様らっ! 私に構うなッ! 撃てッ!」


 ガーリックはエルフたちに激を飛ばす。

 エルフたちもそうしたそうに銃口を向け、迷った表情の末に、ガーリックがいるからか自然と下げていた。


「やれっ! やらんかっ! くっ、覚えていろよダークエルフ共! 私の怨恨は終わらない。怨嗟は続く。必ずや貴様らダークエルフ共にカレーを食わせてやる!」


「言ってろ。お前はこれからホブゴブリンの部屋でたっぷり食わされるんだよ。きつねうどんを。貴様らの脳はもうあの白い食べ物のことしか考えられなくなるんだ! あのナン女のように」


「ナン女……。ターメリックのことか! 貴様ら! 絶対に許さない! 例え私がここで滅びようとも! 必ずや私の意思をついで、貴様ら野蛮エルフ共を根絶やしにしてくれる!」


 身体をくねらせ暴れるガーリック。

 でもあの変な神装。

 【破壊と白星の守護神アテナ】を使えないようね。

 どれだけ力を込めても、種族的な意味もあってラオウさんには勝てないみたい。

 ラオウさんはガーリックを力任せに引き摺って行く。


 それを眺めるエルフたちが、怨恨を秘めた瞳を叩きつけてくる。

 一触即発の雰囲気。

 恐らく分かっているのよね、ガーリックが敗れた以上ここで何をやっても負けるって。

 何もしない方が、傷を負うことなく次の戦争に備えて刃を研ぎ続けることができるって。


 ……前の戦争と同じ。

 いや、それ以上の亀裂がエルフとダークエルフの間に入ることになるわね。

 面倒くさいわ。

 本当に面倒くさいわ。

 歯痒そうな顔をしたミリアを見て、ふと思い出した言葉を反芻した。


 ――だからより一層、あんたを我儘にしてやりたくなったわ!


 気づいた時には、わたしはメンマの肩から離れて大地に背を付けていた。

 青く曇った空を見ながら何でもなくただ呟く。


「カレーうどんが恋しい」


 ラオウさんの足が止まる。

 ダークエルフとエルフ、全員の目がわたしに注がれた。

 けれどわたしは構わず続ける。


「カレーうどんを食べたい。うどんにカレーを掛けた料理が食べたい」


「そ、そうよね! 私もそのカレーうどんって奴食べてみたかったのよ!」


 ミリアがここぞとばかりに賛成してくれる。

 腕組をして、後方師匠面をしていたハルナもひとつ息を吐いて歩み寄ってきた。


「おっ、良いな! おれもうどんとカレーって言葉聞き続けて口が欲しているとこなんだよな!」


 カレー以外のうどん派生しかなかったらそうなるわよね。

 エルフとダークエルフ、両陣営が騒がしくなってくる。

 当然よね。

 勝った側が和平を持ちかけてきているような物よね。

 まるでダークエルフを代表するかのように、メラチャルさんが一歩踏み出してきた。


「何を言うかキリシマ! カレーを食べるなどそんなの許されることではないぞ!」


「カレー粉って小麦粉が入っているので、うどんも実質カレーなのだと愚考します」


「それを言ったらほとんど全部うどんとカレーになるぞ! うどんはうどん! カレーはカレーだ!」


「どちらでも構いません。わたしはカレーうどんが食べたいです」


 わたしの頑固として変えない意見に、メラチャルさんは口を噤んだようね。

 わたしだって分かっているわよ、こんな屁理屈は。

 良い澱むメラチャルさんの肩を掴んで、今度はラオウさんが前に出てくる。

 失望とかではない。族長らしい威厳のある表情で。

 わたしを真上から見下ろしてくる。


「お前は、その我儘のために何千年と続くダークエルフの文化に傷をつけるのか?」


 わたしは上半身を起こさせる。

 そしてラオウさんの目にしっかりと焦点を合わせた。


「文化を尊重するのは非常に大切なことです。しかしそのためにあと何回戦争をしますか? あと何回、子どもには関係の無い禍根を残しますか?」


 わたしは面倒くさいのよ。

 やっぱり英雄願望なんて持つものじゃない。

 こんな毎日毎日緊張感まみれな戦いに繰り出されるのは二度とごめんだわ。

 わたしは戦闘狂じゃないので、何事も無く家で安心感を得る生活を続けたいわ。

 なのでと、わたしは揺るがぬ決意を持ってラオウさんに言い放つ。


「わたしは平穏無事な生活を送りたいです」

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