実はカレーのルーって言わないのよね
「行けルー! 奴らを溺死させろ!」
森の木を見下ろすほどの巨人は多くのエルフとダークエルフの目に留まることだろう。
落ちる。巨人の鉄槌が。
頭上を埋め尽くすほどの茶腕が。
「待って、何か様子がおかしい!」
ミリアの言葉にわたしは気づく。
巨人の腕が変形する。
五本指は内側に収納される。
やがて腕はひとつの砲へと変わっていった。
「いやいやいや待って待って待って!」
だからそんなに待っていたら日が暮れるわ。
巨人の腕に力が集中していく。
空気が入り込んでいく。
そして今、吸引が終わり解き放たれる。
「行けっ! カレーバスター!」
ガーリックが声を荒げる。
放出されたもので世界が陰に閉ざされる。
それは水とは表現しがたいトロミが付いたもので。
見るからに熱々な茶色の濁流。
そう正しく、
「まず食べ物を大切にするところから覚えろよお前らぁぁぁぁ!!」
カレーだった。
わたしはカグツチをドーム状に展開することでミリアとついでにガーリックも守る。
それでも入ってくる黒いカレーをミリアが和傘で防いでくれた。
「アテナと戦った後にカレーと戦うっておかしいだろ! しかも無駄にカッコいいし!」
あれがカッコいいとか終わっているわね、ハルナ。
小学校低学年からやり直した方が良いんじゃないかしら?
ああでも、変わらないわね。
男性っていつまで経ってもおもちゃ遊びするもの。
わたしはミリアを下がらせる。
「倒せるの?」
「あれに比べればアテナの方が厄介よ」
わたしは太もものホルダーに壊れたナイフをしまう。
再び降りかかるカレーにカグツチを飛ばす。
焦げて固形化したカレーの上へと飛び乗った。
右へ左へ。
次々と襲い掛かるカレーを直火で焼く。
わたしは三次元に飛び回り、魔人ルーだかなんだかの真正面へと跳び立った。
「カレーなのだからそりゃ焦げるわよね」
カグツチが魔人ルーの表面を炙っていく。
カレーから呼び出されたのだ。
思った通り、魔人を形成していたのもまたカレーだった。
ガーリックが取り乱したかのように叫びだす。
「何をやっている魔人ルー! お前の力はその程度じゃないだろう! やれっ! カレカレ波だ!」
「シチュー!! カレカレはシチュー!! もはやカレーですら無くなったじゃん!!」
そうなの?
前から思っていたけど無駄に知識あるわよね、ハルナって。
ゾンビなのに。
魔人ルーの両手が合体する。
その手はひとつに混ざり合い、一口の砲門へと変化する。
わたしに照準を合わせてチャージ。
やがてチャージが完了されると、極太のカレー波が飛び出してきた。
「やっぱり最後までカレーじゃん!」
直撃の瞬間、わたしはカグツチでカレーを焦がす。
けどカレカレ波の威力はわたしの想定をはるかに超えていた。
押し負ける。
わたしの脳裏にふと敗北の二文字がチラつく。
いや、まだだわ。まだ力を出せる。
面倒くさがりで、逃げてきたわたしにだって意地はあるのよ。
これでも根性論重視なの。
できないことは基本、思いの力で何とでもなるのよ!
「もうちょっと踏ん張りなさい! キリシマ!」
撃ちだされた虹色の光線がわたしを後押ししてくれた。
光線はカレカレ波の威力を減少させる。
足りない。
まだ足りないわ。
あれを相殺するにはまだ足りない。
もうこれ以上炎が出なくなっても良い。
最後まで炎を爆発させるのよ。
わたしは前世と今世合わせても足りないほどの雄たけびを上げる。
「たぁぁぁぁぁぁぁ!!」
魔人ルーから放たれたカレカレ波が黒く砕け散っていく。
そして魔人ルーまで届き一気に解き放たれた。
炎柱が天へと昇る。
暗雲まで吹っ飛ぶ光景は、エルフとダークエルフの戦争の終焉が訪れた光だった。
ルーの身体が炭化していく。
やがてボロボロと崩れ落ちていき、最後には完全に無くなっていった。
完全に力が無くなったわたしは空から落ちていく。
段々と勢いを増して。
落ちて。落ちて。落ちて。
「やったでありますなお姉ちゃん!!」
がしッとわたしはメンマにキャッチされる。
空はもう水を降らせてなどいなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます