弱いものは弱いなりの戦い方がある


 余裕の出てきたわたしは炎槍を生成する。

 ガーリック目掛けて投げられた炎槍は、しかし右手の盾に防がれてしまった。

 傷ひとつ無し。


「無駄だ。我が盾は戦神の炎槍すら防ぎきる!」


「一応、カグツチからも雷神で戦神で軍神で剣神の子とか、山神とか生まれているんだけどな」


「所詮、力を引き出せていない神装など! 私から見ればただの玩具にすぎん!」


「実際、玩具だけどな! ただ、カグツチは神産みの女神を焼いているんだよな。それに、アテナが戦ったのは戦神が持つ炎の槍に過ぎない」


 ハルナ、どっちの味方なのか本当に分からないわ!

 うるさいし!

 でも言いたいことは分かるわ。

 アテナは炎の神と戦った経験はないってことよね。

 それにようやく反撃の一手を打てるようになってきた。


「いい加減くたばれダークエルフ!」


「嫌よ!」


 針に糸を通すのにも等しい集中力。

 僅かな隙を見つけてはナイフや炎槍を向ける。

 もうそろそろ一時間は経ちそうだけど決定打が無い。

 けどそれは相手も同じ。

 わたしが避けるたびに忌々しそうに口を歪ませた。

 鋭い突きもわたしは上半身を逸らして回避。

 反撃するもやっぱり盾に防がれる。

 バキンッ! とわたしのナイフが一本砕け散った。

 無理もない。

 ガーリックの神槍をカグツチでコーティングしただけのナイフで受け止め捌いているのだ。

 威力が違い過ぎている。

 バキンッ、ガキンッと刃が砕けていく。

 残り一本。

 わたしはこの場一帯を包み込む炎を現出させる。


「あいにくとわたしは凡人なの。ミリアにも負けちゃうほどに。だから、弱者なりの戦い方をさせてもらうわ」


「小癪な真似を。だが――」


 何かを言いかけたガーリックだけど急に咳き込んだ。

 口元を抑えて獰猛な眼差しをわたしに突きつけてくる。


「貴様、これは」


 わたしは日常生活で使っていたけど、本来なら英雄が持つべき力の理。

 あいにくとカグツチを使いこなす道を選ばなかったから、この程度しかできないけど。

 本来ならこれ以上とないほど強い炎とされている。


「この程度、まだまだ軽いッ!」


 しかしガーリックは立ち上がる。

 その双方に強い意思を秘めて。


「負けるものか。私が負けたら同胞が報われない! この程度の炎、優に飲み干してくれる!」


 もはやガーリックから感じたのは意地だった。

 絶対に負けてやるものかっていう意地。

 その意地はわたしのナイフへと突き刺さる。


「所詮はこの程度だ! 貴様の実力などこの程度なのだ!」


「グッ」


 衝撃を流すことができず、わたしは近くの木に叩きつけられた。

 最後のナイフも砕け散る。

 淡々とした足取りで近づいてくるガーリック。

 ゆっくりとした動作で槍を振り上げるガーリックに、わたしは「フフッ」と不敵な笑みを浮かべて見せた。


「気づいていないのかしら? わたしがなんで今このタイミングで炎を出したのか」


 銃声が鳴り響く。

 ガーリックの肺に穴が空く。


「これ……は……」


 流れる鮮血を手に、ガーリックは理解できないといった表情でたたらを踏んだ。

 わたしの視線の先にいるのはミリア。

 ミリアの持つスナイパーライフルから硝煙が立ち昇る。

 致命傷にはなっていない。


「きさ、貴様! うどんにも手を出す口軽女があぁぁぁぁぁぁ!!」


 ガーリックはわたしを無視してミリアへ突撃。

 そこからの光景は酷くゆっくりに見えた。

 ミリアはスナイパーライフルをガーリックへと投擲していた。

 盾でガードをするのが分かり切っていたかのように。

 流れるように和傘を掴んでそして、

 槍が振り下ろされる僅か数秒間にずだだだだだだだッッ! っと、空気が割れんばかりの銃声が響いた。


「な……に……」


「教わったのよ。接近戦でマシンガンを撃ちまくれって。弱い面倒くさい女の言葉も聞いておくものね」


 わたしとの修行。覚えていてくれていたの。

 色々ありすぎてもう忘れているかと思っていたわ。

 ガーリックは数歩後ずさり地面へと崩れ落ちる。

 口にはまだうっすらと不敵な笑みを浮かべながら。


「私はまだ、負けてなどいない! これが見えるか!」


「……グレイビーボート?」


 取り出したのはカレーを入れるランプみたいな形をした銀製の奴。

 ハルナが疑問の声を発する。

 ガーリックが邪悪な笑みを浮かべながらグレイビーボートにカレーを注いでいく。


「これで貴様らダークエルフは終わりだ! ライスを食べるエルフも! ダークエルフに味方をするエルフも! 私を倒したエルフもだ!」


「それ全部同じミリアちゃんじゃねぇか!!」


 雷が轟く。

 空には暗雲が立ち込めていき、やがて風が唸り始める。

 カレーを注がれたグレイビーボートが空へと昇っていく。

 何かよく分からないけど振動して、中のカレーが全て溢れ出た。

 ガーリックは狂ったように笑いだす。


「フ、フハハハハ!! あれこそはコルチャーク神から賜りし我がエルフに代々伝わる守護者! その名も魔人ルー!!」


「「そのネーミングどうにかならなかったの!?」」


 ハルナとミリア、二人でツッコミを入れている。

 名前にツッコミを入れるのは本人の美的センスを否定する行為よ。

 良くないわ。

 それに魔人ルー……良い名前だと思うわ。

 ……無理、前言撤回。

 わたしは少し「フフッ」と笑いを溢してしまう。


 カレーが姿を形成していく。

 大木くらいはありそうな黄色い極太の腕と足。

 おおよそ推定十メートル。

 ひとつ目の茶色い巨人は大地を踏み鳴らしてこの世界に降臨した。

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