鬼に金棒、豚に真珠、わたしに神装
ガーリックは驚いたように息を吹く。
恐らく予想していた光景とは違うものが広がっていたからだろう。
燃え盛る紅蓮の業火。
炎によって弾丸は巻き取るように止められていた。
わたしはどくどくと鳴り続ける鼓動を抑える。
ガーリックは状況を理解するや否やスナイパーライフルを投げ捨てた。
左手には槍を、右手には盾を。
人の形をとる神の化身が神槍を振るう。
「神の槍撃その身に味わえ!」
振るわれるたび真空が発生する絶技。
大地が軋み割れていく。
空は唸り、雷鳴の如き轟音が降り注ぐ。
「これだよこれ! これこそ戦争だよ! いや、不謹慎だけど!」
ハルナの言葉を気にしている暇はない。
少しでも意識が逸れたら、その時点でわたしは串刺しになる。
「我が神装、【
「つぅぅぅぅ!!」
一撃でもまともに受けたらアウトな攻撃。
わたしはガーリックの踏み込みに目を凝らして次を予測。
どうしても回避できそうにない攻撃は弾く。
カグツチをナイフに纏わせて。
たった一撃でナイフがダメになりそう。
「ほう、防ぐか」
感心するかのようにガーリックは息を拭いた。
あまりの強さにわたしは声を震わせる。
「これが神装? わたしの神装とはえらい違いね」
「私はこの日のために常に怨恨という名の刃を研いできた。負けるものかー!!」
暴風が如き神業を見せておきながらなお余裕な態度である。
足りない。まだ少し。あともうちょっと。
毛先が掠る。肘が少し舐められる。服が破れる。
「消えろダークエルフ! カレーの海に溺れてしまえ!」
ガーリックの気迫に押され、わたしは吹き飛ぶ。
ゴロゴロと地面を転がっていき、膝をついているミリアの下まで飛ばされた。
俯いたままのミリアは、わたしに顔だけ動かした。
ポツリ、ポツリと無機質な人形か何かのように言葉を紡ぎだす。
「本当なの? エルフの村が、ダークエルフの手によって一度滅ぼされたって。あのエルフは、略奪によってああなっただけだって」
「あぁ本当だ! この戦争は全てダークエルフとお前から始まった。ダークエルフが、うどんを布教するために十人以上の同胞を連れて行った!! 最も、ひとりを除いて帰ってきたがな」
ガーリックの言葉に、ミリアの瞳に暗闇の光が灯った。
恐らく、ガーリックの言葉は本当だと思う。
だって未だに、わたしもあのエルフがどうしてあそこに囚われているのか分からないのよ。
興味も無かったのだけど。
けどそうよね。
そこにいるってことは、いる理由があっているものよね。
それでもわたしは立ち上がる。
ミリアは締め付けられるかのような声で語り掛けてくる。
「キリシマ。私はもう分からない。同じエルフに襲われて。ダークエルフの皆は優しいのに。でも昔エルフの村を滅ぼしたことがあるって告げられて。誰が味方で誰が敵なのか。もう分からないわ……」
そうね。
わたしがミリアの立場なら。
ダークエルフのみんなが、本当は裏の顔を持っていて、いつかその本性を剥き出して襲ってくるんじゃないかって心配になるわ。
でも、わたしからしてみれば、ダークエルフは基本お人好し。
それも超が付くほど。
カレーさえ出さなければ、ハルナみたいに外と交流することも珍しくは無いのよ。
つまりわたしは……。
あぁもう、めんどくさ。
変に考えて、ダークエルフを援護するのは非常に面倒くさいわ。
わたしは今、明日も平穏に過ごすためにこの戦いを終わらせる。
それだけを考えていればいいのよ。
つまりわたしはね。
「カレー好きよ、わたしは」
「はっ、世迷言を。命乞いなど無意味だ!」
「命乞いでも世迷言でもないわ。わたしはカレー好きよ。必死に文化に馴染もうと頑張るミリアも。それはあの時、エルフと触れ合ったあの時に分かっているのじゃないかしら?」
腕も足もまだ動く。
本当は嫌。
誰かのために傷つくなんて。
わざわざ戦わないといけないなんて。
非常に面倒くさい。
でもわたしだってやるときはやる。
わたしは物語の主人公じゃない。
せいぜい股開いている本に登場する女の子が妥当な存在よ。
それでも。
ここが正念場なのよ。
わたしはガーリックに何度だって斬りかかる。
「何度挑んだって同じこと!」
何度弾かれようと。何度絶技の嵐に身を晒されようと。
わたしはガーリックの動きに身体を合わせる。
うん、段々と分かってきたわ。
わたしのナイフの切っ先があと少しでガーリックへと届きそうになる。
「なんだと!?」
「槍に関して言えば、わたしの妹の方が上ね。竹槍で銀色の怪鳥でも墜としてくれば?」
欲望のせいか動きも変態性が高くて読みにくいし。
その点、ガーリックの絶技は確かに良く洗練されている。
無駄なんてない。隙もほとんど見せない。
だからこそ、
「ここかな」
「ちぃ!」
読みやすい。
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