恐らくガーリックは悪い娘じゃないと思うのよね
「ようやくここまで来たわよ、ガーリック!」
初めてミリアと会った時以来の高校生エルフ、ガーリックはゆっくりと立ち上がった。
わたし、それからミリアを睥睨するとつまらなさそうに息を吐いた。
「あの時始末するべきだった」
ガーリックは後ろ頭を掻いた。
わたしに十五メートルあるかないかといった距離からスナイパーライフルを向けてきた。
ハルナは最初から狙いに入っていない訳ね。
ミリアはわたしより強いけど……。
神装を持っていない分恐らく不利よね。
わたしはミリアより前に出る。
「この戦争、本当にナン派とライス派で起こったことなのかしら?」
「そうだと言ったら」
「ダークエルフまでを巻き込む理由がないわよね」
だって最初に会った時、ダークエルフのわたしたちも根絶やしにすると言っていた。
ミリアを匿うならとかじゃなく。
面倒なのにわたしにも矛先が向いたからよく覚えているわ。
ガーリックは憎々しげな表情で怒号を上げる。
「そんなわけがないだろうが!! 貴様はまだ生まれていないだろうがな、今から四百年ほど前。私の住んでいた村はダークエルフの手によって滅ぼされた」
「ダークエルフの手で?」
「理由はきつねうどんを拒んだからだそうだ。くだらない」
「お前ら食い物で争ってばっかだな!?」
ハルナがここぞとばかりにツッコミを入れてきた。
ミリアと会った時からのような気もするけど、あなたそんなに突っ込んでばっかだったかしら?
というか生きているわよね? 四百年前なら。
何ならわたしの現お父さんが四百以上行っていたわよね?
面倒くさいから親の禍根を子どもに残さないで欲しいわぁ。
「エルフたちがきつねうどん漬けにされたあの日、私は誓った。親、子孫残さず必ずや貴様らダークエルフにカレー漬けにさせてやると!」
「平和だな! お前らの戦争マジで平和だな! 結局カレー食うだけじゃねぇか!」
「三食カレーを強要。毎日カレーのことで創意工夫をしなければ飽きがくる、地獄の苦しみを与えてやる!」
「優しいな! 獄中にいたエルフに比べると随分と優しいな!」
「……なんだと? これでも優しいだと?」
ハルナの連続ツッコミにエルフの族長改め、ガーリックが眉をぴくりと動かした。
ハルナぁ?
それで割を受けるのわたしたちなのよ?
ミリアがわなわなと口に手を近づかせて震わせ、膝から崩れ落ちた。
「そんなもしかして、あのホブゴブリンの部屋にいたエルフは……」
「そうだ。四百年前に捕まった私の同胞だ。それも怒髪天貫く思いだが……、そこのアンデッド。さきほど私の処刑が生ぬるいと言ったな?」
射殺すが如き目線を受けなおハルナは動じない。
まるで女子にピンポイントで当てられ困惑する男子中学生のような態度で、ハルナはホブゴブリンの部屋で見たすべてを話していった。
止めてくれないかしら?
ハルナはダークエルフじゃないから対象外なのよね。
本当に割を食うのはわたしたちなのよ?
話を聞くたびにガーリックの身体が震えている。
気のせいか、大気が揺れ動いている。
ガーリックは顔を俯かせる。
再び顔をあげるころには憤怒の表情で、そして地獄の底から届いてくる怨嗟の声を口にする。
「もういい。死合いはもう始まっている」
炸裂する発砲音。
今更ながらに気づいた。
ガーリックはわざわざ話し合いに付き合ってくれていたわけではなかったのだと。
リロードする時間を稼ぎたかっただけなのだと。
至近距離からのスナイプ。
音が鳴ってから動いても間に合わない。
回避できない弾丸が迫りくる。
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