一番自由度高くて友人と盛り上がれるゲームって、やっぱりTRPGよね。アドリブも調整もその場で効くし


 どこへ引き摺られるのかなぁとか考えていたら、ついた先は魔物が現れる場所であった。

 ミリアがまたもびしっとわたしを指さした。


「平和な生活が好きなあんたにとって、どうよこの場所は!」


「どうよと言われても反応に困るわ」


 わたしの平和な生活の中には狩りとかも含まれているわけで。

 そうなるとねぇ。

 この場所にいること三十分ほど、


「助けてぇぇ! ねぇ助けてよぉ!」


 最初こそ和傘で対応できていたミリアだったけど、魔物は数こそ正義。

 あっという間にミリアは魔物たちに包囲されて追い回されていた。

 ここに連れてきたのミリアでしょうにと、頬を掻いてわたしとハルナはミリアを助ける。

 汗を地面に滴らせ、息も絶え絶えの状態でミリアは四つん這いになる。


「次!」


 ミリアは立ち上がると同時に宣言する。

 まだやるの? と思いながらもわたしはミリアにまた引き摺られていく。

 今度連れて来られたのはわたしの部屋。

 クローゼットを開けてわたしの持っている服を吟味しては地面に投げ捨てている。

 投げ捨てられた服をたたみながらわたしはミリアを待つ。

 最後の一着を投げ捨てたミリアがお腹から声を出した。


「なんで全部お腹が出ている服なのよ!!」


「服は親が作る物よ? 少なくともダークエルフわね」


 娘の魅力が隠れる服をそりゃ作らないわよね。


「しかも全部ブラジャーが見える作りじゃない! 他のダークエルフとかもそうだけど!」


「着けると逆に痛くなるのよ。ダークエルフは基本的にブラジャーを付けないわ」


 わたしは自分のホルスタインを抑え付けながら言ってみる。

 動きも阻害されるし。それなら服着るより出していた方が良くないかしら?

 メンマが野外露出しても誰も何も言わないどころか、笑いごとで済まされているのってそういう理由なのよね。

 ハルナはなんなのかよく分からない微妙な笑みを浮かべる。


「そういやそれ含めてだけどよ。お前あれだよな。規則とか義務とか常識とか言えば普通に身体許しそうだよな」


「そりゃあやるわよ。目立ちたくないもの」


 わたしはさっぱりとハルナに疑問に答える。

 逃げて入社初日みたいな気分を味わうのと、身体を許すだけで高校生活を続けられるなら後者を選ぶわ。

 そんな物よ、わたしは。

 主人公じゃないものと考えていたら、ハルナに肩を掴まれた。


「お前な。そうじゃない。そうじゃないんだよ。変化を描くならもっと濃密にな? 男と女の間で揺れ動くその心を見るのがだな? 元々男なんだと思いながら、どんどん女の身体を受け容れていく感じがだな!」


「やりたいなら自分でやればいいじゃない。そういう意味では、わたしは生娘よ?」


 なんだかハルナの反応が面白くて、わたしは自分の口橋に指を当ててにぃーと妖艶に微笑む。

 元々わたしは男だったから。

 どんなふうに笑うと心にくるのかなんて、熟知していたりするのよ?

 最も男は、大抵の性格、容姿、ジャンルの女の子に色んな所を膨らませるものだけど。

 するとハルナはまたも頭を掻きむしり始めた。

 なんかもう可愛いわね、このゾンビ。


「止めろよ! 本当にそういう、それっぽい色気を出すの止めてくれよ! そうじゃないんだよ! 男の強さはそういう部分で見せるものじゃないんだよぉ! 一周回って男らしいんだよ!」


「うるさい! 次!」


 ミリアは次から次へとわたしを連れまわす。

 子どもの体力というのはすごいものでダメでもすぐに再起する。

 さっきからミリアが何をしたいのかさっぱり分からない。

 けど、監視はわたしの仕事なので付き合う。


「あなたは知識に無い不定形の化け物に出会ってしまった。理性を保てるかどうかサイを振ってください」


「なんでよ! そんなの魔法で倒せるでしょ!」


「この世界、魔法も銃もありません」


「ナイフあるならそれで対抗できるでしょ!」


「弱点の無いスライムにナイフが効くとでも?」


 最後の最後にテーブルトークRPGに行きついてしまった。

 ミリアはまだうどんの仕分けもダークエルフの芸術性も完全に理解していないからね。

 ルールを知っているのはわたしだけなので、即席で必要なものを揃えて知っているシナリオを読み上げる。


「じゃあ私は化け物にこう言うであります!! 君、処理道具に似ているであります!! 今夜から私の愛玩に使ってやるであります!!」


「お前マジでレベルたけぇな」


「ハルナさんに褒められたであります!! これは実質承諾——!」


「気が早えぇし! ちげぇよ! 頭ピンクか!」


「メンマの脳みそはバラ色であります!!」


「なにちょっと花で例えてんだよ! どう考えてもお前はピンクだよ!」


 いつの間にか混じっていたメンマも加えてゲームは進行する。

 あと、あなたが頭ピンクって言葉使うのかしら。

 わたしからすれば、どっちも開けっ広げよ。

 それでえっと、メンマの発言的にこの化け物はこう行動しそうね。


「フッ、えーでは、その発言に怒った化け物にあなたは攻撃されます」


 わたしはシナリオを読み上げてサイを握る。

 今まさに振ろうとしたら、メンマとミリアがこっちの目を見てきているのに気づいた。

 メンマとミリアが顔を見合わせて叫ぶ。


「やっとキリシマが笑った!」

「やっとお姉ちゃんが笑ったであります!!」


 わたしだっておかしかったら笑うわよ?

 機械人間じゃないのよ。

 とにかくサイを振って……あっ、出目が走った。


「ナルトさん。あなたは死にました」


「まだ回避してないであります!!」


「不意打ちなので出来ません」


「オーノー!! で、あります!!」


 わたしはメンマのキャラシートにバツを付ける。

 メンマが絶叫してミリアは「何やってんのよ」と冷やかす。

 そしてハルナは「ほらキャラシ」と新しい紙を手渡す。

 手慣れたものね。

 それもそのはず、ハルナはメンマとミリアに巻き込まれて三十回目のキャラクターロストである。

 引率するのも大変よね。

 久しぶりにこうやって、心の底から誰かと遊んだような気がする。

 もう一度わたしは笑みを溢してシナリオを進めていった。

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