目立ちたくないけど承認欲求もあるのって、本当面倒くさい脳構造していると思うわ


「ついてこないでよ」


「認められないわ」


 ターメリックへの尋問も無事? に終わった昼下がり。

 尋問が終わったのを確認するや否や、早々に立ち去ろうとするミリアをわたしは追いかける。

 わたしが追いかけるとミリアも逃げる。

 もうずっとこんな調子なのである。


「ミリア?」


 話しかけてもミリアは膨れっ面でそっぽを向くばかり。

 子どもの考えていることってよく分からないわ。

 突発的に想定外なことをしでかすから、元々あんまり好きじゃ無いのよね。

 ハルナはターメリックの様子を見ているからって、今ここに居ないし。

 さて、どうしようかしらと思考を巡らしていると、突然ミリアの前にひとつの影が立ち塞がった。


「それだけで謝られるなら私にも謝ってほしいであります!! 今日一日私の欲望発散の道具で手を打つでありますよ!!」


 メンマね。

 あの子は確かに、盾にされたものね。

 わたし含めて誰も心配していなかったのも確かなのよね。

 ミリアはメンマを一蹴して鼻で笑う。


「あんたは日頃の行いが悪いだけよ」


「何おうであります!! お腹パンパンになったのにでありますよ!!」


 自分のお腹をバンバンと叩くメンマ。

 そのお腹はもう既に元のスリムな体形に戻っている。

 さっきまで丸々と太っていたのに。

 一体、どんな身体の構造をしているのか本当に不思議なのよね。

 ハルナ曰はく、時折何されても無事でいられる人たちが居るって話だけど、メンマもそれに該当しているのかしらね。

 わたしはメンマとミリアの会話に割って入る。


「わたし、これからラオウさんとメラチャルさんと話があるから」


 メンマにミリアの監視役を任せて早々とこの場を立ち去ることにする。

 後ろから聞こえるミリアの「ちょっと!」という言葉を聞こえなかったことにして。


  *  *  *


「キリシマ、お前。神装という物を持っているらしいな?」


 わたしの中で平穏無事な生活が完全に音を立てて崩れた気がした。

 メラチャルさんとラオウさんには知られたくなかったのに。

 狩りの時に使っているけど。

 あれは、何もしていないと逆に不自然だったから。

 だけどまだ諦めないわ。

 ラオウさんは神装について聞いているだけ。

 神装の正体やらどんな力を持っているのかとかはバレていないはず。

 ボロを出さなければ、まだ取り返しがつくはずよ。

 少しでもまだバレていない望みに掛けてわたしは言い訳をする。


「神装? 初めて聞く言葉ですね。いったい何のことですか?」


「炎だ。あのエルフから神装だと聞いているが? なんでもエルフの部族長も、その炎に撤退を決意したとか」


「買い被りです。それはエルフの部族長の勘違いです。わたしが何か特殊な力を持つような性格に見えますか?」


 神装を手に入れるのに性格が関係しているのかどうか知らないけど。

 神装は文字通り神の力を内包した装備。

 わたしは神から力を授かった形だけど、どうも転生者が死んだとき神装は世界に残ったままって言っていたから。

 転生者の残した神装を手に入れるなんて、わたしみたいな性格じゃ不可能だと思う。

 ラオウさんは難しい表情でわたしの肩に手を置いてくる。


「お前が問題を起こすような性格ではないことは知っている。ダークエルフらしからぬその性格もだ」


 問題を起こさないように努めていただけだからそう見えてもおかしくない。

 わたしがダークエルフらしくない性格なのは自覚している。

 普通、わたしの歳だともう捨てているから。

 何をとは言わないけど。

 わたしは三回ほど瞬きする。

 頭の中を極限にまで冷やして思考を止める。

 そんなわたしを見透かすかのような目をラオウさんは向けてくる。


「お前が隠したいならそれでいい。だがもしダークエルフのために使ってくれるのなら、一度だけで良い。あの部族長に勝つために。その力を振るってくれ」


 頼むとわたしはラオウさんに頭を下げられた。

 メラチャルさんも同じように倣って頭を下げてくる。

 ……こんなの、ずるい。

 使えばわたしはダークエルフに一目を置かれることとなる。

 使わなければ、ダークエルフはエルフによって滅ばされるかもしれない。

 村が攻め込まれている最中、神装の力を使わないなんて選択肢、取れるはずがない。

 そしてもし隠していたなんて知られたら、ダークエルフに限ってないとは思うけど、わたしたちは追放されるかもしれない。

 使っても使わなくても末路は同じ。


 だったら使う選択をした方がまだましね。

 部族長を倒せれば、わたしはまた平穏な生活を取り戻せる。

 そこまで考えてわたしは、ラオウさんの言葉に「はい」と返事をするほか無かった。

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