拘束されると姫騎士っぽく聞こえるのは仕様なのかしらね


「何でもいいから、頼むっ!」


「あっ、待って! 来るっ! これクるっ! きちゃう!!」


「そんなとこまで! 痛くない!」


 ターメリックとの激闘を制してすぐのこと。

 銃弾とナンが飛び交う戦場。

 多くのダークエルフが、全治一週間の負傷を負った。


 ある者はナンでお腹を。

 またある者はナンで精神を。

 そしてまたある者は大量に詰め込まれたナンで胃痛を。


 激しい銃撃戦が行われた中、ほとんどがナンによる被害しか受けていないのは幸運だったとしか言いようがないわ。

 けれど、ターメリックはエルフの副族長にしか過ぎない。

 もしも今。

 ダークエルフの多くが負傷している今。

 エルフの本隊に襲われたら……。

 

 しかしこちらにはミリアがいた。

 ミリアの操る植物、ツタの先からでる分泌液は傷を癒せる。

 早速とばかりにミリアは治療にあたり、わたしも受けたツタプレイによって、みんなの傷を癒していた。


 男性は男性で、女性は女性で乱れまくる光景。

 そちらを見ないようにハルナはしていたみたいだけど、別に珍しいことでも隠すようなことでもないわ。

 ダークエルフの村だとごく普通な、ありきたりな光景よ?

 それを言ったら、ハルナは余計に女性として生まれ変わったことを嘆いていた。

 ちなみにメンマはあの戦いから一時間で全治していたわ。

 ……うちの妹、やっぱりおかしくないかしら?

 

 それで問題のエルフたちなのだけど……。

 まずターメリックの巻き添えを受けたエルフたちをミリアは治していた。

 やっぱり、同じエルフは放ってはおけないのね。

 ダークエルフたちと一緒に、みんなツタで治していったわ。

 ただし武器は没収。

 魔力の動きを阻害する手錠を用いることで投獄された。


 ダークエルフの森に攻めてきた兵士なので、一個人の家庭にお世話になるといった好待遇を受けることは無い。

 しかしホブゴブリンの部屋行きにならないことだけは、ミリアとなぜかハルナの口添えで可決された。

 それで、ここからは尋問を行っていくことになるのだけど、


「「「「我らは森の御意思に従うのみ」」」」


 意外にもエルフたちは、ターメリックを除いてみな素直にダークエルフたちの指示に従ってくれた。

 どうも今の部族長に良い思いを持っていなかったらしいわ。

 副族長があれなせいね。

 部外者のハルナが深く頷き、一番納得した様子を見せていたわ。


 けれどエルフの話を聞いていくにつれ、どうも一番の問題は部族長のガーリックらしい。

 なんでもダークエルフを根絶やしにするとかで燃えているのだとか。

 理由は分からないけど、そのせいでエルフの方も色々と苦労しているらしい。

 忠誠が本物のターメリックのカレー振る舞いが容認されるくらいには。

 話が進むにすれ、今度はエルフを解放すべきなのではないかという議論になっていた。

 わたしは成り行きに任せるわ。

 けれど意見を求められたときは述べる。

 目立ち過ぎず、目立たすぎず。

 ミリアを含めた会議によって、エルフたちは戦いが終息した後に解放を約束されることになった。

 

 それで今度の問題はターメリックなのだけど……。


「ゴ、ゴブリンだと! やめっ、止めろ! 私はエルフだぞ! 待てッ! そんな物、口に入らな――」


「なんで姫騎士してんだ、このターメリック・マトン・カレー」


「ターメリック・マトン・カリーだ!」


「どっちも同じだろうが! 同じカレーだろうが!」


 流石に首謀者のひとりということもあって、ホブゴブリンの部屋行きになっていた。

 ミリアは今回の事件に関係があるものとして。

 わたしとハルナはその付き添いで。

 ターメリックの拷問に付き添う羽目になった。

 鉄格子越しから聞こえてくるターメリックの絶叫。


「私は屈しない! ガーリック様に忠誠を誓ったのだ! このような恥辱、優に受けきって見せる! 私はターメリック・マトン・カリー! エルフの副族長であり高潔なる者!」


「きつねうどんで何口走ってんだこいつ。ホブゴブリンドン引きしてんじゃねぇか。相当だぞ、ホブゴブリンの方がドン引きすんの」


「ダメだ! そんなもの、口に入らなッ。わ、私はガーリック様の。うどんなぞに屈しない。 私は、羊の、マトンカレーを、全世界に流行らせる。そのためにも! ダークエルフに負けちゃ。……クッ」


「ちょっと堕ち掛かってんじゃねぇよ! カレー好きなら貫けるだろそれ!」


 カレーうどんにして食べればいいのに。

 そんな発想、残念ながら無いのよね。

 絵面としては、魔法を封じられたターメリックに、ホブゴブリン達がうどんを食べさせているだけ。

 どれだけ拒んでも、どれだけ叫んでも、どれだけ懇願しても、無理やり口の中に入れていく。

 うどんを。

 手足も拘束されているので、ターメリックは食べ続けるほかない。

 うどんを。

 わたしはミリアの耳に手を伸ばす。


「ひゃい! なにすんのよ!」


 ミリアはわたしの手を払いのけて距離を取ってくる。

 エルフの耳が敏感なのを知っててやっているので、わたしは素直に頭を下げる。


「ごめんなさい。けど教育上良くないかもって」


「あんたも子どもでしょ!」


「わたしはその……話した通りだから」


「耳年増」


 耳年増……なのかしらね?

 わたしの場合は違うと思うけど。

 鉄格子の中ではホブゴブリンがターメリックを乱暴に押さえつけられている。


「仰向けでご飯を食べるのは、身体に良くないから止めてあげてちょうだい」


「そこじゃねぇだろ!」


 ハルナに背中を叩かれた。

 大事なことよ?

 捕虜を大事にしないとみんなに怒られるから。

 そうなのよね。

 やっぱり捕虜は大事にしないとだめなのよね。

 わたしは後で怒られるのを承知でミリアの耳を全力で塞ぎにかかる。


「ちょっ、止めてっ! 止めてってば!」


「ごめんなさい。けど今はこうさせて」


 わたしはミリアの背後に回って耳を塞いでやる。

 多分これで聞こえないはず。

 甘い吐息を漏らしながらミリアは、腕や足を振り回してわたしをどかせようとしてくる。

 けれどエルフの膂力はたかがしれている。

 ツッコミ好きのハルナが動いていないので、黙認してくれているみたい。

 わたしはミリアの抵抗すべてを抑えて耳に指を突っ込んだ。

 それから数分後、わたしの予想通りターメリックの絶叫がホブゴブリンの部屋中に響き渡った。

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