仰々しく登場した幹部が登場すると、内容はどうあれ緊張するものよね


 ミリアはこの生活を続けてそろそろ一か月経とうとしていた。

 森から出ればいいのに、ハルナ曰はくまだ早いとのこと。


 この先逆境なんていくらでもある。

 だからエルフの問題を自力で解決できるくらいの実力。

 野宿やどうしようもないとき、どうするべきかを考える知識。

 それからどんな相手でも立ち向かえるだけの勇気。

 これら三つが身に付くまでは意地でも出さないと言っていたわ。


 要約すると、逃げ癖を付けさせたくないってことよね。

 逃げる勇気も必要って何か矛盾している気がするわ。

 そもそも逃げなきゃいけない状況を作らない方がいいんじゃないかしらね。


 ともかく一か月いたおかげか、ダークエルフとの連携はもう板に付いたものね。

 誰かとの共同作業も必要って頷いていたけど、そもそもあなたひとりじゃないのよとハルナに口走ったのは記憶に新しいわ。


 その日は食材調達。

 お肉を取りにミリアとメンマ、手伝わないハルナを連れだっての行動だったわ。

 いつもは終わると同時にミリアの戦闘に付き合う日。

 けれどわたしたちを待っていたのは異様な光景だった。

 見慣れた狩場。

 わたしたち一行は足を止めてしまった。

 地面が白茶色に染まっている。

 茶色の正体は土。

 じゃあこの白色の正体は何?

 わたしたちは土を手に取って、指で転がしてみたわ。

 自然と目を凝らす。

 そして気づいた。白く染まった正体に。


 みんながみんな動きを止めたわ。

 特にハルナは顔から色を失っていた。

 わたしも脳が理解することを拒否してくる。

 けれど精一杯、これが現実だと受け止める。

 これがこの世界では普通なことなんだって受け入れる。

 いつも、いつだってそうしてきたもの。

 だって、だって、この白いものの正体は……。

 メンマが服を脱ぎ捨てるのと、わたしの腕に抱き着くのが同時だったわ。

 事態を深刻だと受け取っているのか、眉を顰めて極めて険呑な顔で言葉を放つ。


「ご飯、でありますな!!」


「……はっ? えっ? えっ、はっ? いやいやいやいやいや、なんでご飯。なんで米?」


 ハルナもツッコミが追い付いていない様子だったわ。

 散らばっていたのは踏みつけられたご飯の粒。

 それが木や土に至るまでべったりと……。

 ご飯がバラバラとなって見るも無残な姿で転がっていた。


「しかもなんでわざわざふっくら炊いてきたの? 斬新すぎるんだけど。エルフにとっての宣戦布告なんこれ?」

 

 顔見なくても分かるわ。

 今ハルナ、すっごい困惑の表情を浮かべている。

 わたしは警戒のために目を凝らす。

 索敵のために見渡していたら、ハルナから何かを訴えかける目線が。

 こっち見ないで頂戴。

 すぐにダークエルフが陣形を取る。

 その中でミリアは地面に崩れ落ち、手のひらで口を塞いだ。


「誰……誰よ……。こんなことしたの!」


「いやご飯が散らばっていただけだからな? そりゃ勿体ないと思うけど、その反応はおかしいだろうが!」


 すすり泣くミリア。

 嗚咽を漏らしながら、拳で地面を叩く。

 ダークエルフたちが犯人を探る。

 メンマは一糸纏わぬ姿で声を荒げる。


「誰が……、誰が。誰が!! こんなことをやったのでありましょう!!」


「……うるせぇわ! なに親の仇みたいな声上げてんだよ! ってか、服着ろよ!」


 ハルナがメンマの頭をパーで引っぱたいた。

 邪魔なメンマをハルナに押し付ける。

 わたしの役割は炎を出すのと、いざという時の接近戦。

 持ち場を離れても特に影響はない。

 なのでわたしは、周囲のダークエルフを真似てミリアの背中を擦る。

 表情はあくまでも、事件に巻き込まれた被害者を労わるように。


「ライスなどという外来種に手を出すからこうなるのですよ」


「何ライスと来種で掛けてんだよ! ちっとも上手くねぇよ!」


 突然の出来事だったわ。

 水のように冷ややかな言葉が投げ込まれた。


「誰でありますか!!」


 メンマは声の主がいるであろう木陰に向かって叫ぶ。

 木陰から、一匹のエルフが姿を現した。

 それを合図に百近くのエルフがわたしたちに銃を構えた。


「ミリア、ガーリック様の命によりお前を処刑する」

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