昔っからロボットとかロケットパンチとかに興味無いのよね。でも変身系は好きよ


 ミリアは同年代のダークエルフとも積極的に会話をしようとしていた。

 同年代と言っても十や二十くらいは離れているのだけど。

 三時のおやつできつねうどんを出されたときも、嫌な顔ひとつせずに食べていた。

 分からないことや種族同士で起こる掛け違いも、互いに教え合っていた。

 いつの間にか冷えてスープを吸ったうどんに困惑するミリアを弄る等、概ね深い中を築けているようね。

 そんなミリアを見ながら、わたしは他のダークエルフの会話に相槌を打っていた。

 笑っておけば問題ないのよね。

 元々ミリアには社会性というものがあったのかしら?

 それとわたしに対して妙にドヤ顔をしてくる。


「どうよ!」


「何が?」


 ミリアはわたしの反応を面白くないと思ったのか、妙にツンケンとした態度でダークエルフたちの会話に戻っていた。

 表情を見る分には楽しそうだけど。

 心の底では何か別のことを思っているのだろうか?

 またある時も、またある時も。

 ミリアはダークエルフの輪に混じって仕事をしていた。

 もう既にミリアに迷惑そうな目を向ける人はどこにもおらず。

 ひとりの仲間として受け入れられているエルフの姿がそこにはあった。


  *  *  *


 また別の修行の日。


「うっごかないわね。あんたの筋力どうなっているのよ!」


「これが接近戦をしちゃいけないっていう理由」


 わたしはナイフ一本でミリアの和傘を押さえつけていた。

 ミリアが全力で和傘を振ろうとするも微動だにしない。

 遠距離と近距離、二足の草鞋にそう簡単に負けはしない。

 ミリアが苦戦しているようなのでわたしは質問してみる。


「他にも接近戦をしちゃいけない理由があるけど分かる?」


「どうせ魔弾を撃てないってことでしょ」


「正解」


「確かに弾道は直線よ。けど、こうして魔力を充填すれば!」


 和傘の先端に虹色の燐光が走る。

 ミリアの和傘って魔力チャージを出来るのね。

 集まった燐光はやがてひとつに収束。

 いつでも発射可能なほどに魔力が膨れ上がる。

 けれどその状態でどうやって撃つのだろう。

 疑問に思ったわたしを襲ったのは浮遊感だった。

 原因は傘。

 ミリアが傘を開いた勢いでわたしは上空へと押し上げられていた。

 なんで?


「これでどうよ!」


「いいよ、撃ってきて」


 挑発を受けてか、傘の先端がわたしに向いた。

 収束された魔力が解き放たれる。

 木々が暴れるほどの風。

 大砲の爆撃が連続して放たれたかのような音。

 それは、虹色に煌めく一条の破壊光線。

 まともに受ければ岩すら破壊できそうな質量を持って。

 宙にいるわたしを飲み込もうと駆ける。


「どうよ!」


「うん、やっぱり接近戦には向かないわね」


 ミリアの言葉を受けて、「よっ」とわたしは声を吐いて地面に降り立つ。

 ちょっと手を痛めた。

 ミリアの動きが止まる。

 透明な傘ならまだしも色付き和傘よ?

 瞳を少年のようにキラキラと光らせているハルナが残念そうにぼやく。


「ビームはカッコいいが、撃つ目標が見えないんじゃ当たるわけないか」


「そもそも溜める時間が無駄よ。直線的で躱すのも容易。ミリアの身体が動かされたらそれだけで当たらないわ。総じて意味無しね」


「おいおい、男の浪漫はどうした? ロボットとか変身ものとか昔は好きじゃなかったのか?」


「興味無いわ」


「お前、本当に前世は男か? トランスジェンダー?」


「失った棒を欲しがっているあなたに言われたくないわね」


 誤解がどうと喚くハルナは無視。

 わたしはゆったりとした足取りでミリアへと近づいていく。

 それから開かれた和傘を三回、音高くノックした。

 ……返事が無い。

 和傘をどかしてみると、ミリアは立ったまま目を白くさせて気絶していた。

 わたしが目の前で手を振って見ても返事なし。


「魔力切れ」


 単なる練習でなんで全魔力を込めた一撃を放ってくるのよ。

 わたしじゃなかったら重症よ? ……メンマを除いて。

 あんまりこういう無茶はしないで欲しいわ。実戦に響くもの。

 わたしはミリアの膝下と頭に腕を入れる。


 起きたら本格的に教えないと。

 この和傘が壊滅的に接近戦に向かないことを。

 そのために、わたしが協力してあげられることを考えておかないと。

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