わたしの知る限り、銃弾ってあんまり活躍できないのよね。すぐ錆びるし


 ガキィィンンと甲高い鉄の音が鳴る。

 わたしのナイフがミリアの和傘で抑えつけられ、火花を散らす。

 ミリアの和傘、刃物にも対抗できるのね。

 どうしてこう、この世界は不思議な物ばかりが武器になるのかしら。

 布部分が斬れないっておかしいでしょう。

 ただこうやって斬っているだけでもミリアの問題点が見えてくる。

 それは、


「傘で受け止めちゃダメ?」


 わたしはミリアに気になったことを告げた。

 同じように地面に体育座りをするメンマが手を挙げる。


「接近戦なのに鍔迫り合いしちゃダメってどういうことでありますか!!」


「ミリアの武器が刃物じゃないから。メンマ、竹槍貸して」


 わたしはメンマから竹槍を投げ渡された後、ミリアに立つよう促す。

 さっきと同じようにわたしとミリアは対峙する。

 まるで剣でも構えるかのように傘を持つミリア。

 わたしは地面を斬り、一瞬にしてミリアの懐に潜り込む。

 ミリアが傘を横薙ぎしてくる。

 わたしはその傘から数歩身体を逸らすだけで躱し、手に持った竹槍をミリアの胸に放り投げた。


「とまぁこんな感じに」


「ちょっと! こんなの接近戦とは言わないわよ! あんた武器を手放しているじゃない!」


「それ、魔物とか獲物にも言ってみる? そもそもミリアの傘は近接にも対応可能ってだけで接近戦が出来るってわけじゃないの」


 やはりエルフとダークエルフという種族差は大きい。

 ダークエルフとエルフは両方とも身軽な種族なのは違いない。

 ただダークエルフは接近戦を得意としていて、エルフは弓や魔法といった遠距離戦を得意としている。

 いくら傘で受け止めることができると言っても、本人が非力じゃ弾き飛ばされる危険性の方が高いわ。

 弓を使えると考えればエルフは決して筋力が低いわけではないのだと思う。

 ハルナが思わずといった様子でツッコミを入れてくる。


「どっちとも銃撃戦だろうが! そもそも接近戦に派生すること自体ねぇだろ!」


「拳銃で接近戦することは別に珍しくないわ。鉄の塊よ? これで殴るだけでも意識を奪うことはできる。弾薬が無くなっても投擲される恐れもあるわ」


「接近されている時点で銃使い失格……とはいかねぇか。ゲームだと良く銃で接近戦している奴多いし」


「現実だと当てること自体すごいのよ?」


 こうは言ったものの、銃撃戦をしたこと無いのよね。

 前世は日本生まれだし、銃なんて殺傷武器に興味無かったもの。

 警察とも縁遠いし。

 今世に至ってもわたしナイフ使っているし。

 だから、銃って本当に詳しくないのよね。

 いっそのことだけどとわたしは提案してみる。


「接近されたら連射してみたらどうかな?」


「そんなの前と変わらないじゃない!」


 それは違うとわたしは首を振る。

 こういっては何だけど、そもそも銃というのは近ければ近いほど命中率が増す。

 誰もが知っている当たり前。

 けれど、誰もが知っている当たり前というのは、見落としがちだけど最も重要なことである。

 力学的エネルギーを考えれば威力が増す理由も分かるというもの。

 ミリアはわたしの言葉を聞いて口元に手をやる。


「それじゃ、遠距離はどうすんのよ」


「それはわたしの管轄外。メンマ、交代」


「任されたであります!!」


 わたしの代わりにメンマが前に出る。

 交代際に胸を触ろうとしてきたので叩いておいた。

 ダークエルフが性に奔放とはいえ、この子は強すぎじゃないかしら?

 その欲望が男の子に向いてくれればいいのに。


「さぁ!! わたしに師事をするということは分かっているでありますね!! わたしに負けたら今日一日性どれ――」


「メンマー。それ以上言ったらこれよ?」


 わたしは見せつけるようにカグツチを放出する。

 メンマは分かりやすく首をガクンガクン縦に振り、自分のお口をチャックする仕草をして見せた。

 まったく、この子は。

 どこに理性というものを忘れてきたのかしらね?


「それじゃあ始めるであります!!」


 そう言ってメンマは的の木偶人形を用意する。

 それからミリアの近くに行くと、変に密着して肘やら腰やらに手を回し始める。

 さらには頬までぴったりとくっつけようとしたので、その前にわたしがカグツチを使って食い止める。

 ほんとこの子は……。


「今更だけどメンマで良かったの?」


「今更だけど師事する人、変えたくなってきたわ」


「そして当たり前のように復活するメンマの耐久性どうなってんだ!?」


 師事する人変えたいと思うかもしれないけど、村一番の銃使いがこの子なのもまた事実なのよねぇ……。

 本人の一番得意としている武器はまた違うのに。

 ハルナが言葉で横やりを入れてくる。


「副族長と族長がいるだろ? あいつらの武器は何だよ」


「……聞きたいかしら?」

 

「いや……、遠慮しとくわ。嫌な予感しかしねぇ。ちなみにだが、他にアドバイスとかねぇのか?」


「動きやすいように服の露出を増やせばいいと思うわ」


「もしかしてお前らダークエルフの痴女装束、ちゃんと利便性あるのか?」


 失敬ねと、わたしはハルナを半眼で見る。

 ちゃんとあるわよ、この服の利点。

 胸の動きを阻害されない分変に重心がブレなかったり、動く分身体が熱くなるから熱を逃がすのに最適だったり、その他諸々。

 ハルナは「悪い悪い」と手を合わせて軽めに謝ってくる。

 裸に近くともちゃんと服を着ているという事実から、男性の欲情を煽るという面も否定しないけど。

 機能面を考えると布面積少ない方が生活しやすいのよ。

 ……すぐに始められるようにというのもあながち嘘ではないのよね。

 何をとはハルナに言わないけれど。

 わたしは涼しい顔で竹槍を操るメンマに挑むミリアに目を移す。


 ダークエルフの文化に染まっていくミリア。

 けれどその性格はほとんど変わっていないようで。

 わたしとハルナの三人きりになった時はその本性を露わにする。

 もしも他のダークエルフに聞かれていたら処刑されることを平然と口走る。

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