社会性、社交性を軸にしているけど完璧に把握しているわけじゃないのよね


 そんな風にミリアがダークエルフの文化に染まるためか、手伝いをし始めてそろそろ二週間ほど経過しようとしていた。

 みるみるうちにダークエルフの文化に順応していくミリア。

 わたしですら、三か月ほど掛かったのに。

 若さ故なのかしらね。

 それとも変化を当たり前に受けいれられるからかしら。


「そっち行ったわ!」


「おっし、ナイスだ! あとは任せろ!」


 今ではダークエルフたちに交じって狩りを行っていた。

 ミリアが使っている和傘はガトリングのように連射できる。

 その上、弾数は自身の魔力。

 エルフは元々魔法種族なので魔力量もそれなりなのである。

 そのため狩りで最高のパフォーマンスを発揮していた。

 最も、効率が上がったのは和傘のおかげなんかでは決してなく、


「今よッ!」


 ライフルの銃声が木霊して、獲物をほとんど傷つけずに仕留める。

 他の獲物たちもミリアの誘導によって次々と狩られていった。

 前に行っていた自分本位の狩りとはまるで違う。

 ミリアとダークエルフたちの息が合い始めたのである。

 しかも二週間ほど前は陰険な空気だったのに、今では仲良さそうにハイタッチすら交わしている。

 細かいことを気にしないダークエルフの種族性もあると思うけど、それにしたってはって感じ。

 狩りを終えてもどうせ他の仕事が舞い込んでくる。

 どうせ休めないと、わたしはいつも通り淡々とした作業を行っていく。


「流石にやるであります!! そんなに心を開いたのならば今夜こそ!! 私の部屋に来てくださいで――!!」


 メンマがいつもの流れで服を脱ぎ、褐色の肌を太陽の下に晒した。

 ミリアは後ろから抱き着いてきたメンマを引きはがし、ゼロ距離からマシンガン連射。

 ダークエルフたちにとってはメンマが撃たれるのはいつもの光景なので特に何も言わない。

 むしろまたやっているよと笑うだけであった。


「あいつの身体マジでどうなってんだ」


 魔力で作られた弾とはいえ、貫通すること自体には変わりない。

 なのにメンマは、もう既に何事も無かったかのように起き上がっている。

 弾は全部貫通しているのに、一瞬目を離した時にはもう穴が塞がっているのよね。


「どうよ、私だってやればできるでしょ!」


 ミリアはわたしを見上げてドヤ顔で言ってくる。

 こういう時、なんて返せばいいのだろう?

 とりあえずわたしは普段通り、「そうね」とだけ返す。

 すると呆れ半分、腰に手を当てながらハルナが口を挟んできた。


「褒めるくらいはしてやれよ。カレーとうどんのしがらみを超えて、あそこまで馴染めんのはすごいんだからよ」


「面倒くさい」


「お前、部下に慕われないタイプだっただろ」


「出世したことすらないわ。気苦労を負いたくないもの。何も背負っていないし」


 働ければ生きていくのには困らない。

 休みや神経、健康を害してまでお金やら信用やらを稼ごうとする意味が分からないわ。

 何が不満なのか分からないけど、ミリアはわたしとハルナの手首を掴んで引っ張ってくる。


「今日の用事は終わり? なら付き合って」


 なんでか知らないけどメンマに向かって言うミリア。

 あの、わたしの意見は無視な方向ですか?


「なんですと!! 野外で四人プレイでありますか!! そんなの……そんなの……やぶさかではないでありま――」


 メンマは生まれたありのままを曝け出しながら、大の字でダイブする。

 乾いた火薬の叫び。

 今日は良く銃声が響く。平和ねぇ……。

 ミリアは和傘を振って硝煙を消すと一呼吸置く。


「あんたらには私を鍛えてほしいの」


「それでわたしに何の関係性が?」


「言ったでしょ。あいつはダークエルフも根絶やしにするって。それに……」


 それでどうしてわたしを頼るのか理解できなくて首を横に傾ける。

 ミリアはわたしの身体を「とにかくあんたじゃなきゃいけないの!」と大声を上げる。

 わたしである必要性というと……、十中八九カグツチのことかしらね。

 あの力があれば、確かに対抗することは容易かもしれないわね。

 納得したわたしは絶叫しそうなメンマを事前に押さえつける。


「立ち向かうための力が欲しいと」


「そう言ってるでしょ!」


「面倒くさい。ツン含めて面倒くさい」


「……はぁ?」


 ミリアは訳が分からないといった顔を晒した。

 人の良いハルナは少しわたしを睨むように。

 メンマだけはやる気だったのか、「ヤってやるであります!!」と両腕を振っていた。


「ひとつ、わたしがやるメリットがない。二つ、攻めて来られたらそりゃ対処はするわよ。だからといって、ミリアを育成する理由がない」


「何言ってんの? 私、あんたの言うようにダークエルフと社交性を深めてきたじゃない!」


「三つ、ミリアを育成する労力が勿体ない。四つ、わたしは銃を扱えないし、メンマも本来の武器は銃じゃない。当然ハルナも。五つ、そもそもミリアをエルフに引き渡せば終わりじゃない?」


 わたしは相も変わらず不貞腐れた表情をしている、優しい優しいハルナにも言っておく。


「ミリアに必要な技術を教え込んだところで、待っているのは戦争なの。一回勝っても、二回、三回とキリがない戦争なの。どのみち、どちらかの種は根絶やしになるまで終わらないと思わない?」


「ダークエルフの種が根絶やしになっても良いってことか?」


「そんなこと言ってないじゃない。攻めて込まれたらそりゃ反撃するわよ。けどね、その時にミリアが死んでも死ななくてもわたしには関係の無いって話よ」


 戦争の悲惨さを学ばないことこそ、日本で何を学んできたのって感じなのだけど?

 わたしからしてみれば。

 わたしはいつも通り、平穏な生活を送られればそれで良いわ。


「そんなの嫌であります!! 私はミリアちゃんがいなくなったら寂しいであります!! 同じうどんを食べた中であります!!」


「メンマ、あんたは——」


「もうミリアちゃんの裸も脳裏に鮮明に焼き付けたのでありますよ!! 可愛い女の子がいなくなるなんて!! そんなの不肖メンマ、永遠の傷であります!!」


 考え直してほしいのかメンマはわたしの服に掴み掛かってくる。

 どさくさに紛れて服を脱がそうとしてくるの、止めて欲しいのだけど。

 わたしはメンマの頭に撃鉄を入れて沈ませる。

 沈み込みながらもわたしのパンツに手を掛けてくる。

 ほんとこの子は。


「キリシマ、おれからも頼む。お前にとっておれは確かに部外者かもしれない。けどな、少しでも顔を合わせて、話もして、ご飯も食べたんだ。それが次の日には会えなくなっているなんて耐えられねぇ!」


「わたしはわたしたちの村が無事ならそれで良いわ。知り合ったとしても、他人のために命を張るなんて——」


「それともお前はダークエルフ総出で救い出した女の子を見捨てられるほど、社会の爪弾きになっちまったのか? 周りに合わせられる社交性が無いのか?」


「……分かったわよ、もう。けど、わたしが教えられるのはあくまで接近戦と簡単な射程に関してだけだからね」


 わたしは面倒くさいけどと自分の髪に指を立てる。

 どのみち、命を狙っている存在がいて。いつ襲ってくるか分からない状況。

 そんな生活を平穏とは言えないわよねぇ?

 わたしは心を切り替えてミリアの特訓に付き合うことにする。

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