第269話 加賀茜、加賀悠聖 対 菅原道真 ①
菅原道真――、かつてこの国を呪い、そして神として祀られることでようやく鎮められた呪いの怪物。
「それが、こんな時に復活する? 普通」
加賀茜は舌打ちと共にそう吐き捨てた。
菅原道真の死体は討魔庁の最重要機密である。特殲にもどこにあるかは知らされていない代物を、誰にも気づかれずに運び出すなど不可能だ。たとえ一条夜子が味方にいたとしても。
つまり、彼は死体を必要とする青目の空亡の力によって復活したのではない。
この戦乱によって死んでいった人間たちの嘆きや悲しみ、絶望が呪いとなって道真を呼び起こしたのだ。
「茜ちゃん、どうやら文句を言っている暇は無いみたいだよ」
「はぁ、貧乏くじ引かされたわね」
公家用の着物を纏った道真は一言も言葉を発さない。
ただ、そこに立っているだけだ。しかし、それだけなのに、彼の上空を飛んでいたカラスが白目を剥いて泡を吹きながら落下してくる。
彼の瘴気に当てられた。それだけで、命を奪われたのだ。
茜と悠聖の2人は、霊力による膜を張っているおかげで瘴気を浴びずに済んでいる。
――茜ちゃんと僕の霊力出力で、ようやく弾くことができる瘴気。少なくとも、特殲に相当する実力がないと即死するレベルだ⋯⋯。規格外、という言葉でも生ぬるい。
それまで何もせずに立っているだけだった道真の体が揺れる。
2人は直感的に己の危機を察知して、大きく上空へ飛んだ。
道真の腕が振るわれる。
茜と悠聖の背後にあった街が、一瞬にして更地となった。
「なっ!? なによあれ!? 街が溶けた!? 」
茜の額には冷や汗が浮かぶ。
彼女達は多くの妖怪と相まみえてきた。しかし、これ程の技は見たことがない。
恐らく、まともに喰らえば空亡や麗姫ですら即死するだろう。
「茜ちゃん! 次、来るよ! 」
道真が天に向かって手のひらを向ける。
2人は最大速度を出して、今度は地上へ避難した。
1泊遅れて、大地を震わす轟音と共に空が赤黒く染まる。
それまで晴れていたはずの天気は淀んで、雲の流れが逆流し、程なくして黒雲を形成して雷を鳴らし始めた。
「天変地異すら起こすのか! 」
改めて、悠聖は対峙した敵の危険度を再認識する。再認識すると共に、必ず仕留めなければいけないとも決意した。
「茜ちゃん、こいつは絶対に倒そう」
「言われなくてもやるわよ。こんなのを放っておいたら、九州方面隊は壊滅してしまう」
まだ住民の避難が完了していない地域もある。彼ら以外の討魔官では、道真を目視する前に瘴気で死ぬだろう。
すぐに対応できるのは、この2人だけだった。
「はぁ⋯⋯遺書書いてくれば良かった」
「茜ちゃんは、死なせないよ。絶対」
「悠聖さんも、死んだら祟るからね」
妖の巫女 田中髑髏 @tnaka_dokuro
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