第258話 東雲朝水 対 蘆屋道満 ①

 ビルの隙間から、雲が流れている。

 東雲朝水と蘆屋道満という、2人の強者が発する霊力によって、大気が渦を巻いていた。


「“道下乱呪どうげらんじゅ”」


 先にしかけたのは道満。

 太刀を持たない左手で印を結び、朝水の足元に術を発動させる。

 無数の太刀が突如現れ、彼女の体を刺し貫いた。溢れ出した血液が鋼を伝って地面に置いていく。


 全身を突き刺されたが、彼女は死なない。すぐさま薙刀を振り回し、自身に刺さっていた太刀を折って、道満に向かって踏み込んだ。


「ぬぅっ! 」


 振り下ろした薙刀による斬撃を彼は太刀で受け止める。

 散るようにして、衝撃で破壊されたコンクリートが宙に舞った。


 朝水が力を入れて薙刀を押し込むと、道満はそれに抵抗することなく、逆に太刀を引く。


「っ! 」


 手応えと支えを失った彼女は前につんのめるようにしてバランスを崩す。その首に太刀が振り下ろされた。

 よく研がれた、切れ味の鋭い鋼の刃は、彼女の傷1つない白い肌を綺麗に切り裂き、首を切断する。

 ぼとりと落ちた生首はしかし、瞬時に蒸発し空へと消え、体の切断面からは新たな首が霧のように現れた。


 この間、1秒にも満たない。

 朝水は崩れた体を立て直し、持った薙刀を支え棒代わりに、ポールダンスのように体を浮かして両足で道満の顔面を蹴りつけた。

 霊力による強化を受けた蹴りは彼の頭蓋骨を砕き、そのまま後方へ吹き飛ばす。


 パラパラと砂塵が舞う中、折れた鼻を抑えながら道満はゆっくりと立ち上がった。


「ふむ、不死というのも困ったものじゃ。オマケに痛覚まで薄れているとは」

「あなたの術じゃ私を一撃で倒すことはできません。大人しく殺されてください。疲れるのは嫌いなので」


 パッ、と道満の体が消える。


「なっ!? 」


 次に彼は朝水の背後に出現し、彼女を羽交い締めにする。そのまま力を込めて、その細い首を折り曲げた。


「好みじゃない男に触られても嬉しくないんですけど」


 だが彼女はまたも治癒術でそれを回復させ、肘鉄で道満のみぞおちを抉り、体を反転させるて同時に薙刀を振り抜いて彼の胸を切り裂いた。

 さらに追撃の突きを繰り出そうとするが、道満は後ろへ飛び退いてそれを避ける。


「⋯⋯なるほど、な」

「? なんですか? 人の顔をジロジロと。私がかわいいのは分かりますけど、あなたみたいなオッサンは好みじゃありません。不愉快です」


 伝説の術師の口角がニヤリと持ち上がる。


「お主の、そのカラクリが分かった」

「なに? 」

「心の傷には詳しくてな。なるほど、そんな過去があったか」


 朝水は察する。


 ――こいつ、私の記憶を読み取って⋯⋯。


「孤独、冷たい家族、それは辛かろう。感覚を失うのも無理は無い。しかし、お主はもう知っているのでは無いか? 」

「なんの事です? 」

を」


 太刀がキラリと光った。


「その温もりを自覚した時、お主の心は、生き返る」


 ――そしてそれが、不死身が終わる時じゃ。

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