第249話 今川明菜 対 美作優佳 ③

 大蛇の攻撃は、苛烈であった。

 明菜は霊力による身体強化という、基礎的な技術でそれを回避していた。

 高層ビルほどの大きさの怪物から放たれる空亡の妖術は、1発でも受ければ瞬時に消し炭になるレベルのものであった。

 炎、斬撃、氷。あらゆる属性の攻撃が彼女を襲った。


 ――避けるだけで精一杯……! “再臨”を使ってライコウを復活させたいけど、これじゃあその暇が無い!


 鳥のように宙を飛び回り、妖術が体に当たる寸前の所で何とか回避しながら、針の穴のような小さな反撃のチャンスを待つ。

 しかし、美作はその機会を絶対に与えない。


雪男イエティ! 」


 気絶していたはずの雪男が明菜の背後に現れる。


 ――レイピアで無理やり……!?


 彼女の顔面に太い腕から放たれたパンチが叩き込まれる。

 空から地面に叩きつけられた。体を強化していなければ、この時点で死んでいただろう。


「あっ、がぁ! くっ! 」


 それでもダメージは避けられない。

 殴られた顔はもちろん、衝撃で肋骨が折れ肺に突き刺さったのが分かる。

 もちろん治癒術で回復しようとするが、この機を黙って逃すほど美作は馬鹿では無い。


「大蛇! 」


 蛇の大口が、明菜の前で開け放たれた。


「簡単には殺さないわよ」


 そのまま食い殺せば、一瞬だったであろう。しかし、大蛇が最初に食ったのは彼女の右腕であった。


「っ! があああああああ!! 」


 明菜の絶叫に美作は口を歪めた。待ち望んでいた愉悦の時である。


 大蛇はその巨体からすればあまりに小さい明菜の体を、殺さないよう、少しづつ食べていく。

 右腕の次は左足を、その次は左腕を。

 より長く苦しむよう、ジワジワと彼女をダルマにしていく。


 既に明菜の意識は途切れかけていた。

 頭に走馬灯が流れ出すころ、ようやく美作が「殺せ」と命じる。


 ――西郷、はん……。


 思い出すのは、愛しい人の顔と声。


 ――――なぁ、明菜。

 ――――どしたん?

 ――――俺は……


 ――あれ? この後、なんて言われんやっけ。


 明菜の眼前に、蛇の開かれた口が迫る。


 ――ああ、そっか。この後百鬼夜行が起きて、聞けなかったんや。


 彼女を口に入れ、鋭く研ぎ澄まされた牙がじきに頭を噛み潰す。


 ――聞かないと。


 牙が刺さる。


 ――聞かないと、死ねない……!


「“再臨”」


 大蛇の頭が風船のように弾けて、散った血液と共に明菜が内からユラユラと現れた。

 右腕と両足を復活させ、左腕だけは欠損したままの状態である。傍らにライコウを控えさせ、自らは錫杖をしっかりと握りしめていた。


「まだ立てるのかよ……! 」

「会う前に死ぬなんて、そんなの、あかんよな? 西郷はん」


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