第248話 今川明菜 対 美作優佳 ②

 ライコウに斬られた大蛇は、のたうち回りながら血を噴き出している。

 しかし、それすらも致命傷にはならない。苦しみながらも怪物は、その傷を塞いでいった。

 痛みに悶えながらも死ねず、強制的に戦わされる大蛇を見て、明菜は顔を顰めた。


「なぁあんた、そのレイピア……」

「あぁ、気づいた? 」


 美作は大蛇や先程の雪男イエティに指示を出す時、レイピアから微弱な霊力を発していた。

 明菜ほどの使い手でなくては気が付かないほどの微々たるものだが、術師としては強大ではない美作が、あの怪物達を使役できるカラクリがそこにあることは明白であった。


「大蛇達の体の中に、このレイピアから発せられている霊力を受け取る かくを植え付けたのよ。それで無理やり肉体を変質させてる訳よ」

「つまり、あの子達は元々あんな怪物じゃなかったと? 」


 彼女の問いに、美作は唐突に笑いだした。


「アッハッハッ! 当たり前じゃない! 大蛇の元はただの蛇、雪男はただの猿。そいつらに神話生物やUMAの遺伝子を無理やり合成して、ついでに核をくっつけて霊力を流す。それだけで私の指示に従い続ける化け物の完成よ! 」

「なんてことをするんや! そんなことされたら……」

「えぇ、苦しいでしょうねぇ。でも、それがなに? 獣畜生や他人がどうなろうが、知ったこっちゃないわ」


 幾度の戦いをくぐり抜けてきた巫女の勘が、彼女にこう告げた。

 ――和解は不可能。


 明菜としては、できることなら殺さずに戦闘不能に追い込むだけで留めたかったが、この女はそれでは止まらないだろう。

 きっと死ぬまで抵抗する。


 価値観や倫理観が根本的に違う者とは、共存は不可能である。


「ライコウ! 」


 ライコウが再び斬撃で大蛇の首を飛ばす。悲痛な叫び声が明菜の耳を痛く突いた。


 ――ごめんな……。


 心の中で謝りながら、彼女自身は美作に向かっていく。

 彼女と違い、美作本人はさほど強力な使い手では無い。ライコウなしでも簡単に仕留められるだろう。


「まさか、大蛇の力があんなものだと? 」

「なんやって? 」


 レイピアが大蛇に向けられた。


「“真眼しんがん”! 」


 一際高い叫びが街中に響き渡る。

 大蛇の体に、無数の目が浮かび上がった。


「あれは……!? 」

「大蛇、見せてやりな。“”! 」

「えっ……」


 大蛇の口にエネルギーが充填されていく。

 高出力の妖力が、大きな愚痴から漏れ出すようにして解き放たれた。

 強烈な閃光が京の都を包み込んで、一気にライコウと明菜を飲み込んで行った。

 彼女は咄嗟にライコウを影にして隠れたが、それでもなお、身体の一部が吹き飛ばされるのを感じた。


 ――これって、空泣きくんの……!


 閃光は一瞬の間だった。

 それでも、古都の街並みを完全に破壊し、明菜にダメージを与えるには十分であった。


「くっ……! 」


 ちぎれた腕を再生させながら、なぜ空亡の技を大蛇が使えるのから、彼女は頭を必死に回した。


「うちにも空亡がいたからねぇ。あいつの細胞を貰って、大蛇に植え付けたのよ。今のこいつは空亡の力を身につけた、まさに最強の生物よ」


 美作の口角がゆっくりと持ち上がる。


「あなたのその可愛い顔が、涙でぐちゃぐちゃになるのが楽しみよ」

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