第247話 今川明菜 対 美作優佳 ①

「化粧濃すぎて、能面つけてるんかと思ってましたわ」

「っ! ……ガキが! 」


 美作が引き抜いたレイピアが鋭く光る。ダイヤモンドのように光を照らして、キラキラと光っていた。

 明菜も錫杖しゃくじょうを構え、足元に霊力を流し込む。


「“ライコウ”! 」


 眩い光を放ちながら大地を割って出てきた、巨大な甲冑武者。

 6メートルはあろうかという体躯に、それと見劣りしない太刀を持っていた。

 並の術師であれば、ライコウの姿を見ただけで失禁するほどの強力な付喪神つくもがみだ。美作をそれを舐め回すように見て冷静に分析する。


 ――今川家相伝の付喪神……。でも、ここまでの存在に昇華しているのは、このガキの技術か……。


 明菜は強い。

 そう確信した彼女は、全ての力を注ぎ込むことを決める。


「いいわよ、全力で潰してあげる。“大蛇おろち”! 」


 大地を引き裂き、雲を呼ぶ。

 神とも呼ぶべき人工の怪物が姿を地を割って現した。

 8つの頭と8つの尾。そして、高層ビルと同じだけの体高。伝説にたがわない化け物だ。


「っ! 死んでなかったんか! 」

「ギャアアア!! 」


 鼓膜に響く、轟音。

 たった一体の生物から出る音とは、とても思えなかった。


「食っちまいな! 」


 8つの首が一斉に明菜に向かってその大口を広げる。

 歯には唾液の代わりに毒が滴っていた。


「“万世一斬ばんせいいちざん”! 」


 ライコウの太刀に超高密度の霊力が集中し、彼がそれを振り払うと同時に一気に放出されていく。

 たちまちのうちに、大蛇の首は切断され宙を舞い、土埃と共に地面に落ちていった。


「一撃で……!? 」


 たった一振り。しかし、その一撃は、全てを斬り裂く斬撃だ。


「でも……! 」


 失ったはずの大蛇の首は、ボコボコと音を立てて復活していった。


「不死身の怪物……、朝水ちゃんとどっちが回復早いんやろ」


 明菜の顔に焦りの色は見えない。

 先程の撃ち合いで、彼女は正確に彼我の力量差を把握した。


 ――単純な戦闘力だけで言えばライコウの方が上やな。大蛇を任せて、うちがあの女を……。


 考えをまとめるとすぐさま行動に移る。


「ライコウ! “酒鬼雷斬しゅきらいざん”! 」


 太刀に纏った霊力は変質し、雷となる。

 爆音と共に大蛇の体は撃たれ、焦げ臭く焼けていった。


「この隙に……! 」


 錫杖を構え、明菜は美作に突撃する。

 だが敵はニヤリと笑うと、レイピアを彼女に向かって突きつけた。


「この私がサブプランを用意していないととでも? 」


 瞬間、明菜の腕が力強く掴まれる。

 まるでゴリラに握られているように、全く体が動かない。


雪男ゆきおとこ、やっちまいな! 」


 背後から拘束していたのは、全身を白い体毛に覆われた二足歩行の猿であった。

 木のように太い腕は、自然界の強さを感じさせる。


「ウオオオオ!! 」

「へぇ、こんなんもおるんや。なんや、ちょっと可愛いやん」


 大きく振り上げられた、雪男の剛腕。

 それが明菜の顔面に向けて振り下ろされる。

 だが――


「おいたはダメやで? お猿さん」


 彼女はそれをなんなく手で受け止めると、逆に腹に向けて蹴りをくらわせ、雪男をビルに向けて吹き飛ばした。

 めりんこんだ怪物が、苦悶の声を上げる。


「……は? 」


 美作からは、思わず間抜けな声がこぼれでる。

 か弱い女性の見た目からは想像できない、鬼のような力であった。


「式神使いの本体が弱かったら話にならんやろ」

「はっ、化け物……」

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