第241話 対峙①

「あと3週間か……」


 ベッドに寝転びながら、私は1人で呟いた。

 討魔庁の宿舎に泊まるのも、これで何度目だろうか。


 時間はどんどん過ぎていった。

 毎日を過ごして、日が進む事に私の胸は締め付けられ、言いようのない不安が襲った。

 お母さん曰く、龍神を倒せるのは私だけらしい。もし神野が本当に龍神を復活させたら、私がそれを倒さなければならない。

 必然的に、龍神の近くにいるであろう神野とも戦うことになるだろう。


 ――勝てるのか。


 私よりお母さんの方が適任ではないか。それでなくとも、空亡や特殲のメンバーの方が遥かに実戦経験が豊富だ。

 神野と対峙するのが、私で良いのか。


 その不安を押し殺そうと、目を瞑って瞑想していると、突如大地が揺れた。

 それとほぼ同時に部屋の扉が開け放たれ、葵が慌てて転がるようにして飛び出してきた。


「莉子ちゃん! 来たよ! 」

「分かった! 」


 期限までは3週間。しかし、向こうはそれより早く仕掛けてきた。

 私が先にやったことだ。予想はしていた。

 すぐに巫女服を着て、外に駆け出していく。


「なっ! こんな数……!? 」


 ――空亡の言っていたことは本当だった!


 突如ワープするようにして現れた妖怪の群れは、尋常では無い数だった。

 数百、数千では無い。おそらく何百万といる。

 唖然として妖怪で黒く埋め尽くされた空を見上げていると、横から大きな虎の妖怪が口を開けて私を食いに来る。


 咄嗟にかわして、体を反転させながら首に一撃を決めると、すぐにそいつは死んだ。


 ――個体ごとの強さはそれほどでもない! でも、この数じゃ!


 鳥、狼、虫、次々に襲い来る妖怪は私の足を停滞させた。


「くっ! 空亡! 」

「“幽玄神威”! 」


 炸裂した幽玄神威が霧のように群れる化け物を打ち払った。だが、またすぐに集まっては向かってくる。

 これでは、神野を探す所では無い。

 お母さんも、葵も別のところで戦っているし、いくら空亡がいても、負けることは無くても前進できない。


「危ない! 」

「きゃっ! 」


 突然空亡に手を引かれて転倒する。少し遅れて、鉄筋コンクリートのビルを両断する程の斬撃が、ついさっきまで私が立っていた場所に真っ二つに切り裂く。


「チッ! 外しちまったか」


 それを飛ばしたのは、目の前に現れた鬼。

 深い緑色の肌に、大きく太い角。八瀬童子にも匹敵するほどの分厚い筋肉。


「こいつ、鬼童丸か! 」

「知ってるの? 」

「あぁ。酒呑童子の部下だったが、力はあいつ以上……。鬼の中では最強の部類だ」


 こんなやつまでいるのか。

 まずい。神野と戦う前に、こいつにやられるかもしれない。


「当代の龍神の巫女の首、貰い受ける! 」


 ドンッ、と踏み込んだ鬼童丸の足による衝撃で、コンクリートの道路がめくれ上がり、そして次の瞬間には私の眼前に刀の刃が迫っていた。

 耐えるしかない、と痛みに備えて霊力を全身に回す。


 だが、その痛みはやってはこなかった。


「すまんな娘。遅くなった」


 その男はいとも容易く鬼童丸の攻撃を跳ね除ける。

 筋骨隆々の、年老いた男。


「ぬらりひょん!? 」

「ワシだけではないぞ! 」


 わぁっと打ち上がった鬨の声が、東京の街を包み込んだ。


「あれは、九尾!? 鬼に

、天狗も! 」

「お主が繋いだえにしだ。貴様の妹が駆けずり回って集めたそうだぞ。戦闘機? とやらに乗ってな」


 妹、沙羅のことだろう。

 素人があんなものに乗り込むなど、無茶をするものだ。芙蓉を連れていったのはそのためか。

 私は体から自然に力が抜けるのを感じた。


「ぬらりひょん。任せていい? 」

「構わん! お主は、神野を討て! 奴は願龍山にいるぞ! 」


 私は彼に背を向けて駆け出した。


「恩に着る! ぬらりひょん! 」


 空亡も片手を上げて彼に礼を言って私についてくる。


「ふん! この後酒の1杯でも奢ってもらおう。さて、鬼童丸とやら。死ぬ用意はできておるか? 」

「かのぬらりひょんとれるとは。興奮してきたわ! 」


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