第219話 宣戦布告

 妖怪の大軍も、今やその数を減らしていた。すぐにでも駆逐されるだろう。

 人間に被害が出なかった訳ではないが、思っていたよりも少なく抑えられただろう。

 気がかりなのは、結界内に閉じ込められた明菜達だ。


「まだ戦ってるの……」


 相手は空亡だ。

 いかに妖怪を相手にするのに慣れているとはいえ、ちょっとやそっとで適う相手ではない。


 不安が胸をかすめた私が空を見上げた時、空間にピシリとヒビが入った。

 次の瞬間にはその空間が割れ、中から出てきたのは明菜達、特殲の面々と青目の空亡。

 明菜達は目立った傷はないが、肩で息をしている。空亡は対照的に余裕だ。


 そして、その他にもう1人、私がよく知っている顔があった。


「神野……! 」


 私の父を自称する謎の男、九条神野。

 彼が空亡の側に立って、明菜達を見下ろしていた。


「ごめん莉子ちゃん。途中からあいつが入ってきて……」


 私の口が開かれるより早く、神野が言葉を紡ぎ出した。


「莉子、それから特域殲魔課の諸君。いやはや感服だよ、よもやここまでやるとは。私達の目的は既に達せられた。後は、龍神を目覚めさせるだけだ。ただ……」


 彼は縛られて前に垂らされた髪を後ろへやって、ニタニタとした気持ちの悪い笑みを浮かべた。


「儀式までまだ時間がかかりそうなんだ。どうだい? ここは一時休戦にして、2月後、全面戦争といこうじゃないか」


 その言葉に強く憤ったのは、香月芙蓉だった。


「ふざけんな! お前は今ここで殺す! 」

「これを見ても、まだそんなことが言えるかい? 」


 神野の指が1つ鳴らされた。

 すると、雲のような影が、いくつかその場に飛来してくる。まるで流星群のようだ。

 それは段々と、生き物の形をとっていき、最後には雲が晴れる。


「あいつら、尾延山の! 」


 尾延山にいた、忍者風の男と厚化粧の女。

 それだけでは無い。

 安倍晴明、蘆屋道満、そして天狗の霧雨。さらに酒呑童子に玉藻の前。

 これまでの旅で戦ってきた者達が、次々と現れていった。


「我々としても、儀式の前に余分なエネルギーを使いたくないんだ。だったらいっそ、全面的に戦って決着をつけてから、儀式を行いたい」


 こっちには特殲がいる。

 しかし、向こうの戦力もかなりのものだ。今ここで戦えば、被害は免れない。いや、勝てるかどうかさえ不明だ。


 ならば、答えは1つ。


「……わかったわ。良いでしょう」

「ちょ、ちょっと莉子ちゃん! 」

「明菜、今ここで戦ったら負けるかもしれない。お願い、聞いて。考えがあるの」


 彼女は渋々とした表情で頷いた後、1歩後ろへ下がった。


「決まりだね。では、ここに宣言しよう! 我々は2月後、君たちに宣戦布告をする! 百鬼夜行を、もう一度この国に起こす」


 彼らの姿が半透明になっていき、姿が薄くなる。


「精々、準備をしておくことだ」


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