第218話 覚悟

 風を引き裂く音を耳に残しながら、特殲の面々が振るう各々の武器が、空亡の体に傷を残している。

 治癒術はあるものの、妖力が枯渇するまでこれを続けられれば、彼といえども死ぬだろう。


 ――あの女、霊力を回復できるのか。


 彼の視線の先には、東雲朝水。

 体に付けられた傷ばかりではなく、人の身体に眠る霊力、それを回復させることができる。恐らく、過去にも未来にも彼女と同じ能力を持った者はいない。


 西郷の鎖鎌を掴んで、引き寄せて攻撃しようとしても、横から入ってきたライコウに腕を切断されて上手くいかない。

 彼女達は常に連携を取って戦っていた。

 1人が危機に陥れば、あらゆる手段を使ってその者を助け出し、1人が反撃に転じれば全員が同じタイミングで攻撃をしかける。


 ――やっぱり、を維持したままでは上手くいかないな。


 ***


 特殲と赤目の空亡が結界内に閉じ込められてから、既に1時間は経過した。

 私と空亡はその間、外にいる妖怪の群れの相手をしている。


「どんだけいるのよ! 」


 群がる妖怪を叩く。叩く。その繰り返しだ。

 空亡と協力して駆逐しようと試みているが、一向に数が減らない。

 まだ市民が残っている状態で空亡を暴れさせる訳にはいかないし、明らかに人手が足りていなかった。


 ――このままじゃ、東京ごと飲み込まれる!


 犠牲を覚悟の上で空亡の力を解放するか。

 でも、いや、しかし。堂々巡りの思考が戦う手をにぶらせた。

 迷いながら目を泳がせていると、視界の端に人影が移る。

 次の瞬間には、目の前にいた芋虫の妖怪が爆散し、紫色の体液をぶちまけた。


「指示はないが、致し方ない! 反撃しろ! 」


 待機していた討魔官達が、一斉に戦いを始めた。

 彼らは明菜達ほどの強さは無い。5人1組の班を作って、集団的に反抗していた。


「まずい! このままじゃ、犠牲が……! 」

「どなたかは知りませんが、心配はご無用です」


 私の目の前にいた中年の巫女が答えた。


「で、でも……! 」

「勿論、私達だって死にたくはありません。でもね……」


 彼女は周りを見渡し、討魔官1人1人の顔を見ていた。

 指揮官なのだろうか。


「我々にも家族がいるんですよ。死ぬのが嫌でも、死んでも守りたいものくらい、あるんです」


 彼女達は、覚悟を持って戦場に立っていた。

 私はきっと、討魔官という人間達の覚悟を見誤っていたのだろう。烏楽うらくの時も、死にたくないと、死に際に言う者はいても、みんな決して逃げなかった。

 怯えて、震えながら、それでも戦っているんだ。


 だったら、私も覚悟を決める時だ。


「空亡! 民間人を巻き込まない程度に、全力で戦うわよ! 」

「承知した! 」

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