第215話 本性

 足に力を込めて、アスファルトを破壊しながら上空へ飛び上がった。

 パンチを振り抜くと、葵の結界と衝突して霊力がぶつかり、バリバリと雷のような音を立てて拮抗する。

 腹を蹴られ、重力に従って地面へと落ちた私に、彼女はもう一度結界を準備した。


「“破式――”」


 ――来た! この技だ!


 結界を爆発させて、高出力のエネルギーをぶつけてくる技。

 強力で破壊力も高い。しかし、それゆえの弱点がある。それも、葵特有の。


「……」

「どうしたの? 撃ちなさいよ、葵」


 避けようとも、自分に向かってこようともしない私に対して、刀印を結んだ指先に結界を構築したまま、彼女は固まった。私に向かってぶつけてこようとしてくる様子は無い。

 自然と、私の口角が持ち上がる。顔が歪んでいるのが自分でも分かった。


「リコちゃん……、あなた……」

「ふふっ! やっぱりね! あんた、悪役向いてないわよ! 」


 私は再び飛び上がる。

 


 彼女はさっき、『破式結界』を空中に向けて放った。チャンスはいくらでもあったのに、私の背後に街がある時は、絶対にやらなかったのだ。


「撃てないわよねぇ! だって、何の罪もない民間人を巻き込んじゃうもの! 」


 これが私の作戦。

 街の人々を人質にとって、彼女の技を制限すること。

 既にひとつ結界を作っていたことで、守るための結界を作れなかったのだろう。私の拳が、まともに葵の腹に入った。咳き込みながら、彼女が顔を上げる。

 ニヤッと笑っている。


「こんな作戦、とる人だったんだ」

「私って、意外とクズなんだ。勿論、葵が皆を巻き込まないっていう確信はあったけどね」


 本当の私は、優しくて強い『リコ』じゃない。

 自分勝手で、傲慢、それが『莉子』だったんだ。

 傲慢も使いようによっては武器になる。


「こんなことで、勝ったと思わないで! “攻式 八重結界”! 」


 無数に散らばるようして構築された結界が、ガラス片のように私に向かってくる。

 一瞬で高度を下げて、私は窓を突き破ってビルの中に入った。

 案の定、まだ人が居た。


「くっ……!」


 結界がオフィスを切り裂く寸前、慌てて彼女は結界を解除する。


「“竜骨”」


 守るための結界ではなく、攻めるための結界を構築している、この瞬間。

 絶対の防御を持つ彼女にダメージを与えることができる、唯一の隙だ。

 腹に命中した私の拳が、彼女の体を2つ折りにして、そのまま吹き飛ばした。

 鉄筋のビルを4個ほど貫通して、自動車にぶつかって轟音と共に爆発した。


 私はゆっくりと彼女の前に降り立つ。


「葵、もうやめよ? あなたに悪党の真似事なんてできないよ」

「っ! うるさい! 知ったような口を聞くな! 何にも知らないくせに! 」


 また結界を張ろうとしたので、その前に顔を蹴って横に飛ばす。

 悶えながらも、葵は再び立ち上がろうとする。


「どうして、そこまで……」

「恩人を助けるのに、理由なんかないでしょ! 」


「私が、夜子さんの味方になってあげなきゃ……。あの人を、最期まで、1人にしないように……」

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