第212話 国家

 鳴り響く小銃の連射音。

 空亡の結界も通じないので、いちいち避けなくてはならない。それ自体はさほど難しくも無いが、如何せん敵の数が多い。

 しかも、このテロリスト達の動き。一切無駄が無い、高度な連携とあまりにも手慣れた動き。

 一朝一夕で身につくものでは無い。専門的、それも超高度な軍事訓練を受けたものだろう。


「こんなことになるならこっそり侵入すれば良かった! 」

「お前が爆破しちまえって言ったんだぞ、莉子! 」

「はぁ!? あんただって大喜びで賛成したじゃないの、よ! 」


 敵を殴りながら空亡にも八つ当たりをする。お互いに軽口を叩けるということは、実際はまだまだ余裕であるということだ。


「夜子の奴、どこにいやがる! 」


 こんな派手な登場をしたクセに、私達は全くの無策である。

 立てた計画は、突入して何とか夜子さんと葵を見つけ出して話を聞く。それだけだ。

 当然ながらどの部屋にいるだとか、敵の戦力だとか、そんなものは一切把握していない。


「この部屋も違う! 」


 既に3室目。道を進んで、階段を昇り降りして、その度に敵と交戦して倒す。かなりハードだ。

 もう息は上がっているし、肩には弾がかすった。


「長官補佐室……」


 もしかしたら、と思い、ドアを開け放つ。


「っ! あなたは! 」

「んんん! んん! 」


 そこにいたのは夜子さんでは無かった。

 禿げた頭の老人。テレビで見たことがある。確か、討魔庁の長官補佐の1人だ。

 口にガムテープを貼られていた。何かを叫んでいたのですぐに駆け寄って、それを剥がす。


「四条莉子だな! 」

「ええ、そうだけど」

「いきなりで申し訳ないが、時間が無い。夜子の目的についてだ。あいつがやろうとしていること、それは……だ! 」


 ***


「随分派手に暴れてるわね。莉子ちゃん」

「夜子さんの言う通り、隠そうともしなかったね」


 本来ならば討魔庁長官が座る、質の良い椅子に夜子はどっかりと座っていた。

 葵は窓の外を見て、ビルから立ち上る黒煙を眺めている。


霊障弾れいしょうだん、やっぱり相手が強いとあんまりだね」

「そうね。アメリカ軍の専門部隊が使ってもあのザマじゃね」


 椅子への座り方を浅くして、彼女は手に持った薬莢を眺めた。


「それにしても、アメリカもいつの間にこんなものを……」

「龍神復活を手伝うついでに、霊術師を殲滅する。はぁ、私達そんなに怖いのかな」

「余程日本を傀儡かいらいにしたいのでしょうね。そのためには霊術師は邪魔で仕方ないってこと」


 霊術師、こと討魔庁の討魔官は対人戦闘という点で見ても、非常に大きな戦力だ。

 真っ当に戦争なんてしても勝てない。例え核兵器込みでも。


 日本の傀儡化と龍神復活、お互いに目的をアシストする。これを提案したのは夜子だった。

 もっとも、何か交換条件はあるかと尋ねたらその答えが帰ってきただけで、彼女にとっても寝耳に水の話ではあったが。


「多分、総理の救出にも奏多ちゃんが行ってるわよね」

「だと思う。ついでにぬらりひょんも」

「最強の討魔官と妖怪の大将軍。向こうは多分壊滅ね」

「生き返らせる? 」

「……別にいいわ。どうせ役立たずとアメリカの連中よ」


 彼女達が話していると、段々戦闘の音が近づいてくるのが分かった。


「そろそろ来るわね」


 ――リコちゃん。どうして来ちゃったの?


 一際大きな銃声とその後に続く悲鳴が聞こえた次の瞬間、長官室のドアは開け放たれた。

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