第211話 陰謀
東京の摩天楼、そのはるか上空で見渡す街並みは、私の心臓の焦りとは正反対に静かだった。
夜は
あれから、討魔庁におけるテロ事件は一条夜子の指揮のもと数時間で終息した、と報じられている。
しかし、もちろん自作自演だろう。あの本部ビルの中には、まだ武器を持ったテロリスト共がうじゃうじゃしているはずだ。
夜子さん以外の補佐官が一向に表に出てこないのがその証拠である。
そして何より――。
「あの妖怪の群れ……」
数にして数百。さほど強力な妖怪は居ないが、それでも東京にあの数がいるのは異常事態だ。
だと言うのに、討魔官達はそれらと睨み合ったきり動く気配が無い。
本来なら、即刻駆逐するよう命令が出ていいはずである。
特殲の人間にも連絡は取れなかった。彼女達を頼ることも、今は出来ない。
「夜子さん、何を考えてるの? 」
気持ち悪い。彼女も、葵も何がしたいのか全く分からない。
虐殺をするでもない。青目の空亡を復活させて暴れさせるでもない。目的が一切不明だ。
私は今日、それを知りに来たのだ。
「空亡」
「なんだ? 」
彼の霊体化を解除する。
「今から、あそこに乗り込むからね」
「気をつけろよ。討魔庁を制圧したヤツらだ。持ってる武器もきっと普通じゃない」
「分かってる」
神宮奏多とぬらりひょんにはやってもらいたいことがある。彼女達を直接投入するにはまだ早い。
それに何より、じっくり夜子さんと話がしたかった。
「よし。じゃあ乗り込みましょ」
「経路案内は任せろ」
そう言うと、空亡は討魔庁本部のビルに手のひらを向けた。
炎が炸裂し爆発して、黒煙が上がる。
私達はその煙の中に突っ込んだ。
前がよく見えない。少し派手すぎただろうか。
ようやく煙を抜けると、小銃を持った特殊部隊風の男達が騒いでいた。
「こいつら、まさか……! 殺して構わん。やれ! 」
彼らの小銃が一斉に火を噴く。
空亡が私の前に立って、結界を構築した。
しかし、弾丸はその結界をすり抜けて、空亡の体をそのまま射抜いていく。
「っ!? ちっ! 」
舌打ちを1つして、彼が腕を振るう。
斬撃によって手足を切り裂かれた男達が、のたうち回った。
「空亡、大丈夫!? 」
「あぁ、何とかな。だがこの弾、結界が効かなかった。しかも、治りが遅い」
彼の治癒術の精度は東雲朝水にも匹敵するだろう。しかし、どういう訳かその治癒術の回りが遅い。全く回復しないことは無いが、いつものように瞬時に治すことが出来ていない。
「特殊弾丸……。こんなものまで」
彼が妖怪であるから致命傷にはならなかったものの、人間であれば死んでいる。
霊力を持たない者が、霊術師を殺すことに特化した弾だ。こんなもの、夜子さん個人では用意出来ない。
それこそ、国家による研究機関でも後ろ盾についていなければ、作ることはできないだろう。
「ん? これは……? 」
私は気を失っているテロリストが着ている、防弾チョッキの胸元にあるマークに気がついた。
「星条旗? 」
アメリカの国旗だ。
「いったい、どうなってるの? 」
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