第174話 空亡㉕ 決着
ぽた、ぽた、と亡の血液が地面を穿つ。
間一髪の所で、何とか攻撃をかわしたものの、彼の左腕は完全に破壊された。岩に押しつぶされたように、骨が砕けて皮膚ごと伸びきっている。
だらんと垂らされたその腕から、絶え間なく血が流れ続けていた。
「“竜骨”! 」
背後から八瀬の背中に向けて放たれる神楽の技。彼はそれを体を半身にして避けると、神楽を亡のいる方へと蹴り飛ばした。
2人で地面に転がり、神楽の体を亡が支える形となった。
「おい、無事か……? 」
「それは、私の方が言う言葉ですよ? 」
亡の潰れた腕を見て、神楽が苦笑する。
彼女の腹にも、八瀬が蹴りこんだことによって生じた傷が、刀傷のように生々しく残っている。
今は空が彼を抑えているが、1人では突破されるのも時間の問題だろう。
早く立ち上がって戦いに加わらなければならない。
そう思って足に力を入れる神楽だったが、膝が震えて立ち上がることができない。
全く力が入らず、よろめいた彼女を亡が抱きとめた。
「思った以上に、傷が深いようです……」
彼女の肩を抱く亡の手が強く握り込められた。
「まだ戦えるか? 」
神楽は強がって笑みを浮かべた。
「もちろん」
お互いに支え合いながら、八瀬に向かって突撃していく。
空の首を掴んでいた八瀬は、すぐさま彼らの方を振り向き、掴んでいた人間を捨てて拳を握りこんだ。
「“岩砕”! 」
眼前に迫る鬼の拳を、神楽は紙一重で避けた。
先程までの彼女だったら当たっていただろう。
――この女、これ程早くに俺の技に適応したか……!?
驚きつつも八瀬は攻撃の手を緩めることは無い。
横から再び戦いに入ってきた空を振り向きざまの蹴りで気絶させ、神楽の『竜骨』をその手で受け止めて、亡の太刀を刃ごと手で掴んで彼を持ち上げた。
「まぁ、人間にしてはよく頑張ったよ。お前らは」
そう言って、鬼は足を振り上げる。亡と神楽の頭を1つずつ砕こうとした、その時だった。
亡の足に霊力と妖力が集まる。
「“幽玄神威”! 」
「っ!? 足から!? 」
『幽玄神威』の推進力を手に入れ、彼の刃は猛然と八瀬の体を刺し貫く。
体勢が崩れた所を逃さずに、神楽が追い討ちと言わんばかりに畳み掛けた。
「“竜骨”! 」
正拳突きが八瀬に突き刺さる。拳が彼の厚い体を貫通して、背中から飛び出した。
だが、鬼にとってはこれでも致命傷には程遠い。
「“金剛――」
2人まとめて潰す。
そう拳を振り上げた。その時、彼の脳裏にある男の存在がよぎる。
はっ、と後ろを振り返ると、ふらふらと覚束無い足取りながらも、空が立ち上がっていた。
「やれ! 兄さん! 」
「お願いします! 空さん! 」
動こうにも、刺さった拳と太刀がそれを許さない。
「お前ら、このために! 」
空の視界は判然としていない。仲間たちの声を頼りに、そこに向かって飛び込んだ。
「“鬼落とし”! 」
その1太刀は八瀬の脳天を捉える。
太刀が折れ、刃が飛んだ。それと同時に、鬼の巨体が大きな音を立てて、その場に倒れ伏した。
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