第165話 空亡⑯ 閃王一陣
空の袈裟斬りを、霧雨は何事もなくかわす。そして、また彼の腹に超速度の蹴りを叩き込んだ。
衝撃がやってくる。その前だった。
空が蹴りこんで来た霧雨の足を左手で掴んで、右手に持っていた太刀でそのまま切断する。
妖怪の再生能力は人とは比べ物にならない。霊力を刀に込めて切りつけたが、また再生されるだろう。
しかし、その一瞬。片足が無くなったその一瞬は、霧雨が体勢を崩し、反撃に移ることができない時間だ。
空は彼の治癒が発動する前に、次なる攻撃を叩き込む。肩口から腰にかけてを一刀のもとに切り裂き、また切り上げて、今度は腹を裂いた。
「ぐおおっ! 」
確実に体力は削れている。
空は亡とは違い、妖力は扱えない。その代わり、彼の霊力出力は亡を圧倒していた。体を強化する霊力の出力が高ければ、当然一撃ごとの威力も跳ね上がる。
刀に纏わせている霊力も、並の天狗であれば即死させる程の強いものだ。
如何に霧雨が強力な妖怪だと言っても、それを無効化することは不可能である。
体の欠損は治せても、減った体力は戻らない。
――この人間、わざと俺の視界外から攻撃してくる! 俺の予想が外される!
長い太刀をいっぱいに使って、視覚の外から刃を入れている。霧雨も次の攻撃がどこから飛んでくるのかを予測しているが、空はそれすらも読み切って攻撃をしている。
予測さえ当たれば、天狗の速さであれば人間の攻撃などいとも容易くかわすことが出来る。空は、自身の経験値と技術でそれを防いでいた。
空が腰に巻き付けていた鞘を取り払って、左手に握り込む。
彼は1度、その鞘に太刀を収納した。
「なにを……」
腰を低くし、太刀を横向きに変える。
己の集中力を極限まで高める。それと同時に、ありったけの霊力を太刀に送り込んで、より強力に練り上げる。
この間、瞬き1つほどの時間もかかっていない。
空が1歩を踏み込んだ。
がごっ、と地面が砕ける。
彼はそのまま鞘に入れたままにした刀を、抜き払った。
「“
反応できなかった。天狗の速度をもってしても。
空が繰り出した高速の斬撃は、霧雨が知覚する前に彼の体を通り抜け、切り裂いた。
空の体もまた、一瞬のうちに霧雨の後ろまで駆け抜けている。
「がはっ! 」
鮮血。
傷口からクジラの潮のように血が吹き出た。
それは1箇所だけでは無い。彼の体のあちらこちらから血が湧き出て、彼と大地を赤く染めた。
空が浴びせた斬撃そのものは、1つだけ。
だが、強くそして速く振り抜かれたその一撃は、風を切り裂き、それが無数の太刀となって霧雨を襲ったのだ。
それでも霧雨は立ち上がろうとする。しかし、足元が揺れる。震えた膝を治めることができず、ついに彼はその場に倒れ伏した。
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