第127話 外れた枷
――福岡県福岡市。
一斉に動き出した妖怪の群れをものともせず、空亡達は一直線に神野へ向けて進撃した。
挨拶がわりの空亡のパンチを、神野は半身になっていとも容易くかわすと、身体を回転させて彼の後頭部に肘鉄を当てた。
後頭部からの衝撃に対し、足を踏ん張って耐え振り向いて斬撃を繰り出す。不可視の攻撃ではあるが、神野はいとも容易く霊力で強化された手でそれを払った。
――こいつ、本当に人間か!?
青目の空亡と式神契約を結んだことで、莉子の父親を名乗るこの男もまた身体能力が大幅に向上していた。
莉子と同じか、それ以上に空亡の力に適応している。
「おい! 1体1じゃねぇぞ! 」
空亡に手刀を振りおろそうとする神野の背後から、大きく拳を振り上げた八瀬童子がイノシシのように突っ込んできた。
不意を突いた一撃は見事に男の顔面を捉え、そのまま吹き飛ばす。鉄筋コンクリートのビルを4つ貫通したところで体勢を立て直すが、そこに今度はキャシーの爪が迫った。
肩から腰にかけて、大きな3本の切り傷が刻まれ、鮮血が宙に舞う。痛がる様子も動揺することもなく神野はキャシーの顔面を殴りつけた。
つい直前まで血が流れ出ていた彼の傷は即座に塞がり、彼は霊力を練り出す。
「
彼が腕を空に突き上げると、大地に向けて天から無数の光の矢が降り注いだ。矢が当たったところから爆発し、福岡の街がガラガラと音を立てて崩れていく。
「
神野は脇腹に、誰かの手の感触を感じた。それは次第に数を増やし、全身を鷲掴みにする。
締め上げられ、握りつぶされる。彼の手足は潰れ、骨が飛び出した。
「呪い、か。これは誰のものだい? 祓魔師くん」
彼に触れていたのは加賀悠聖だ。今しがたその手足を握りつぶした力の正体は、呪い。強い念が込められた負の力が形成した腕だった。
神野の体はすぐさま再生する。
回し蹴りを悠聖の首に叩き込むと、そのまま追撃と言わんばかりにその顔を掴んだ。
「この呪い、君のものではないね。地縛霊、いやそれもおかしいか。どちらかというと守護霊かな? 」
100キロ近い悠聖の体を片手で簡単に持ち上げ、頭を締め上げた。
このまま握り潰してしまおうと力を入れると、彼を掴んでいた腕がまた潰れる。
「随分と仲が良いことで」
ねじ切られたような傷跡を残す腕を見ながら、神野は不敵に笑みを浮かべる。
「っ!? 」
突如、右側面に迫る殺気。この戦いで初めて焦りを見せた男の体が、砂塵を巻き上げながら地面に突き刺さった。
彼女の持つ刀は、中ほどからポッキリと折れていた。力任せに振り回したことでダメにしたのだろう。
その壊れた刀剣の石突の部分から煙が上がっていた。そこで彼の体を突いたのだろう。
「茜ちゃん、また刀ダメにしたの? 」
「脆いのが悪いんですよ」
彼女が武器を破壊するのは初めてでは無い。1度の任務につき3個ほど、支給された刀や槍を壊していた。
妖喰らいの彼女にとって、人間の道具は脆くて仕方が無い。
「おい、死んだのか? 」
「いや、まだだね」
「頑丈なヤツめ」
既に傷を治し、両手を袖に突っ込んで立つ神野を見下ろし、空亡、キャシー、八瀬は辟易とする。
すぐにでもこいつを倒し、莉子の元へ急がなければいけない。だというのに、この戦力を持ってしても未だに致命傷を与えられていない。
妖怪の群れも、戦いに巻き込まれてかなり数は減らしたが、羽虫のようにうじゃうじゃと湧いて出ていた。
そこで、空亡は自分の体に起こった違和感に気がつく。妖力が高まった。膂力もそれまでの比ではない。
まるで、枷が外れたように彼の体は軽くなった。
「これは……? まさか、そんな! 」
神野の口角が持ち上がる。
「良かったじゃないか。枷が取れて」
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