第118話 運命
洞窟の中は妙に明るかった。そこかしこに設置された松明が、地中の闇を払う。
ぴちょん、ぴちょん、と水滴が垂れる音を聞きながら、私達は八瀬に招かれるまま、鬼の宝物庫の中へと進んで行った。
やがて、大きな扉に突き当たる。無骨で飾り気のない洞窟に似合わず、金が使われた豪華な扉だった。
八瀬は片手でそれを勢いよく開いて、私達を中に入れる。
「すごっ、これ本物? 」
葵が感嘆の声を上げる。
部屋の中は金銀財宝で満たされていた。大判小判に高級な布、そして装飾の施された武器の数々。
八瀬はそれらをかき分けながら亡雫を探した。
「ここら辺にあったはずなんだが、どこにやったか」
「おいおい、そんな雑にしまってたのか? 」
宝物が落ちてぶつかる。甲高く重い金属音が響く。やがて彼はお目当てのものをみつけた。
「おっ! あったあった」
「随分あっさりとくれるのね」
「まぁ、あの時の約束だからな」
「あの時? 」
「ああ! こいつが封印される前の……」
八瀬は言葉に詰まる。目を宙に泳がせて、そのまま黙ってしまった。
「どうしたの? 」
「いや、すまん。上手く思い出せない。空亡、お前は覚えてるか」
「あー、あの時の……、ん? なんだったかな」
何を言っているんだと突っ込もうとした時、私はデジャブを感じた。
――この2人の感じ、どこかで見たような……。
「まぁいいや。ありがたく貰っていこう」
「おう持ってけ持ってけ。お前らも、ここにあるもの好きなだけ持って行っていいぞ。俺達には無用の長物だ」
空亡は貰った亡雫を呑み込むと、手を握ったり閉じたり……。
体の変化を実感しているようだった。
「これで、残るは討魔庁から持ち出されたものだけみたいだな」
最後の亡雫は興亡派が持っている。だが、もう1人の空亡が復活していることを考えれば、既に吸収されているだろう。
となれば、必然的に奴らと戦わなければならなくなってくる。
私は、その事実に密かに喜びを感じていた。私のせいでお母さんが犠牲となったあの日からずっと待ち侘びていた。
できることなら、
そのために必要な技も会得した。あいつだけは絶対に許さない。この身が朽ち果てても、絶対に殺してみせる。
「リコちゃん? 」
葵の声で我に帰った。どろどろとした妄想の中に沈んでいた私を、彼女が引き戻してくれる。
「ど、どうしたの? 」
「なんか、すごく怖い顔してたから……」
「なんでも、ないわ」
私は努めて自らをいつもの調子に戻す。
私がやろうとしていることを知れば、彼女はきっと悲しんで止めようとする。それは思い上がりだろうか。
彼女が何か言おうとした時、スマホが鳴った。
――ここ電波通るんだ……。
葵は1度出てから、すぐにスピーカーに変更する。
『もしもし、私よ』
夜子さんだ。
「夜子さん、亡雫は全部集めたわ。残ってるのは興亡派が持ってるものだけ」
『そう、それは良かったわ。近いうちに奴らの居場所も突き止めるから、少し待ってて。それでね……』
スマホの向こうからガサガサと紙の音がする。資料だろうか。
『落ち着いて聞いて。莉子ちゃん、あなたが指名手配されることになったわ』
「はぁ!? なんで!? 」
心当たりが無いと言えば嘘になる。私は戦う時にかなり派手に自然を破壊していた。もしかしたら、誰か人間を巻き込んでいたのかもしれない。
葵は思った以上に冷静だった。手で私を落ち着かせ、夜子さんに続きを促す。
「烏楽の1件で討魔庁の上層部も焦っているみたいなの。なりふり構っていられないみたいね」
私はスマホを見て、ニュースサイトを確認する。
“人気アイドル「リコ」、内乱の扇動で指名手配”
記事によれば、私が空亡を匿って国家転覆を図っているというものだった。
『メディアに出された情報は、全て討魔庁からのものよ』
まさか空亡の名前も出すなんて……。
これでは日常に帰る所ではない。街を出歩けないではないか。
『悪い知らせはもう1つ。討魔庁に興亡派に通じる内通者がいるわ』
「誰が内通者かって、分かってるの? 」
葵が低い声で問う。
『うちの長官さまよ』
「討魔庁の長官が興亡派の仲間ってこと!? 」
『実は、先月から長官が行方不明になっててね、公安が調査してたんだけど……、その過程であの人が興亡派に情報を流していたのが分かったの』
よりにもよってトップがその有様とは、討魔庁の内部事情はどうなっているのか。
『どうりで奴らの正体が掴めない訳だわ。莉子ちゃん達が行く先々で興亡派に出くわすのも、多分それが原因よ』
ゲームみたいに各ステージにボスが配置されている理由は分かった。
だが、そうなるとここにも……。
「お頭! 妙な人間が! 」
「なに? 」
やはり来た。私達の行動は筒抜けだ。
「夜子さん! 後でかけ直す! 」
私達は急いで宝物庫の外へと抜け出した。
するとそこには、白い法衣を纏った男が、倒れた鬼の体に座っていた。
彼は目にかかったサラリとした黒髪を撫でながら、狐のように尖った目を私達に向ける。
「やっと会えたね、莉子」
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