第107話 時代との別れ
私と空亡は互いの力を自分の物に変換することができる。空亡の妖力は私の霊力にできるし、私の霊力は空亡の妖力になる。
普段はどちらかがスタミナ切れになることを防ぐため、互いに力を食い合うことは避けている。
だが、今この場での脅威は霧雨だけだ。それに、人里の様子も気になる。余力を残しておく必要は無いだろう。
私は空に浮かぶだけの最低限の霊力を残し、残りの全てを空亡に変換した。
――これは、霊力を妖力に変えた……!? だが、なんだこの霊力量は!
霧雨に余裕は剥がれ落ちて、後は驚くばかりである。
私が霊力を使って戦うようになったのは、お母さんが死んでからだ。それ以前に修練などほぼ積んでいない私は、霊術の扱いが下手だった。
だが、どういう訳か霊力の量とその出力。この2点に関しては能力が高かった。
私が霊術を使わずに、霊力による強化を施した体術だけで勝負できるのはそれが理由だ。
その有り余る燃料を、圧倒的な妖術、そして出力を持つ空亡が持てばどうなるか。
「っ!? 」
空亡の飛ばした斬撃が、霧雨の体を両断する。尚も止まらない余波は、森林を破壊し、前方一体をはげ山にさせた。
彼は治癒術で何とか体を繋ぎとめたが、止血ができていない。回復が間に合わないのであろう。
「“現世”」
次は爆炎が上がる。青紫色をしたその炎は、霧雨の体を焼き、焦がす。
「行ってきなさいよ」
「……はい! 」
時雨も送り出す。私は宙に浮くので精一杯で、少し目も回っている。貧血のような状態だ。
斬撃、爆炎。それに加えて時雨の風による攻撃。
霧雨の体はどんどん崩れ落ちていく。
「くそっ! おのれ! 」
風刃。霧雨が生み出したその刃は、空亡と時雨を狙ったものでは無い。
対象は私だ。
「させると思うか! 」
空亡が『幽世』を使ってその刃を別空間に飛ばそうと試みた。しかし、彼の前に割って入った天狗にそれを阻止される。
刃は構わずに全身を続け、そして斬り裂いた。
ただし斬ったのは私ではなく、私を庇った雪だったが。
斬られた腕を治しながら、雪は目に涙を浮かべていた。
後ろを見ると、百足から出てきた天狗達が一掃されていた。
自分の手で送ったのだろう。子供を。
「いい加減死んじまえよ! この老害が! 」
空亡が霧雨を蹴り飛ばす。頭が折れ曲がり、首が捻じ曲がっていた。
飛ばされた先に居たのは、時雨だ。
「これが、時代との決別になります」
手刀が霧雨の体を真っ二つに切り分け、時雨は追い討ちに、竜巻を出現させて彼にぶつけた。
「時代は、繰り返すものだぞ……」
竜巻が消えた時、奴の姿はもう無かった。
同時に百足も消滅し、葵が私に駆け寄る。
「リコちゃ……うぶっ! 」
手で彼女の顔を押しのけて、抱きつこうとしたのを阻止する。
全身に虫の体液を浴びているのだ。今はご遠慮願いたい。
「シャワー浴びてからにして」
激闘の余韻も無く、時雨はまた翼を広げた。
「私は澄晴と共に人里の妖怪を一掃します。お礼とお詫びはまたの機会に」
それだけ言うとすぐに彼女は飛び立った。
よろける私を空亡が抱きとめる。
「何も全部使うことは無かっただろう」
「加減できないのよ。悪かったわね下手くそで」
それを見て葵がわなわなと震えている。どうしたのかと尋ねる前に、彼女は叫んだ。
「お、男がリコちゃんに触るなぁ! 」
面倒なので放っておこう。
喚く葵を無視し、空亡の背に私を乗せて、皆で人里へと急ぐ。
既に街の方からは煙が上がっていた。
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