第79話 首謀者
里から外れた林の奥深く。藁が被せられた遺体が並んでいる。
検分をしているのか、複数の天狗がそこにいた。遺体もおそらくは天狗だろう。
「すみませーん。犯人の特徴とか、教えてください」
調査はまず聞き込みから。
私達がその役目に抜擢したのは朝水だ。理由はすぐに分かるだろう。
「な、なんだお前は!? 雪様が連れ込んだ人間か!? ならんならん! 貴様らに教えることなど何も無いわ! 」
予想されていた答えだ。
朝水は前屈みになって、上目遣いで天狗を見る。はだけた胸元を強調するように、大きな胸を腕で持ち上げた。
「そこを、何とかできませんか? 」
「な、ならん! 」
――え? 効くの?
元々赤い天狗の顔が更に赤く染まる。
妖怪にも色仕掛けは通用するようだ。
「逞しい体ですね……」
天狗の胸元を、朝水の指先がいやらしく撫でる。
「私、人間のモノじゃ満足できなくて……」
「な、なんだ。ふふっ、そういうことか」
呆気なく陥落した天狗の腕が、朝水の肩を掴んだ、その時。
「きゃあああ! 止めて! 何するんですか! 」
「え? 」
朝水がわざとらしく叫んだ。
困惑した天狗は、彼女の手に肩を置いたまま固まる。
「朝水! どうした!? 」
次いで飛び出したのは芙蓉。こちらもわざとらしく朝水を心配している。
「こ、この天狗さんが、無理やり……」
彼女は顔に手を当てて、泣き始めた。
ここで私達も出る。
「ちょっとちょっと、天狗さん。人間の女の子を襲うなんて」
「え? は? 」
葵が天狗を睨みつけながら因縁をつけた。
一気にたたみかける。
「良くない、良くないわね。ねぇ、空亡」
「全くだよ。頭領に報告したら、どうなるんだろうなぁ? 」
「え? 」
天狗と肩を組むようにして、その耳元で囁く空亡。
赤かった天狗の顔は青ざめている。
「私、許せねぇよ……。仲間をこんな風にされて、服まではだけさせて……。事件の詳細を隅々まで教えてくれないと、許せねぇ」
わなわな震えながら、偽りの怒りを演じる芙蓉は、かなりノっている。
「いや、違う! それは、そいつが……」
「誘惑してきたからだ、ってか? 痴漢の言い分で良くあるよなぁ? 」
「えぇ、信頼できないわ」
冷や汗を滝のように流しながら、天狗は目を泳がせる。
おそらく、何が起こっているのか分からないのだろう。
「なぁ、どんな奴が事件起こしたんだ? 教えてくれれば、報告はしない」
「そ、そんな事……」
「うわあああん! あんな酷いことしておいて、しらばっくれるなんて、あんまりです! 」
「朝水……。くっ、てめぇ! 」
震える天狗の体。可哀想だが、彼の命を守るためでもあるのだ。
「ねぇ、お願い。お・し・え・て? 」
***
頭の禿げ上がった大男と、狩衣を来た痩せた男。
それが天狗を襲った犯人だ。
泣きながら詳細を喋ってくれた天狗のおかげで、とりあえず探すべき相手は見つかった。
「で、ここからどう見つけるんだ? 」
空亡の疑問に対する解答を、私は持ち合わせていなかった。
容姿の情報だけでは捜索はできない。
「あっ! 」
私は見つけた。少ない手がかりでも、ほぼ確実にその居場所を突き止めることができる人物。
しかもその人は私達の味方についている。
「葵! 夜子さんに連絡して! 」
「あ、そっか! 」
夜子さんなら、どんな人間も占いで居場所を突き止めることができる。
数回のコールの後、夜子さんと繋がった。
「ゲホッ! ゲホッ! もしもし? 葵ちゃん、どうしたの? 私今、天狗対策の調整で忙しくて……」
「夜子さん、占って! 」
***
天狗の殺害現場から、北西に1キロ進んだ場所。
夜子さんは、男たちの居場所を詳細に突き止めて見せた。
少ない情報からの占いは、かなり体力を消耗するようで、終わったあとの彼女の声はげっそりとしていた。
私達はスマホで1キロの距離を測りながら、猛ダッシュしていた。
「人脈ってサイコー! 」
まさかこんなにトントン拍子解決するとは。
1番の誤算は、天狗に人間の色仕掛けが効いたところだが。
「私の美貌に感謝してくださいね」
朝水が自慢げに鼻を高くする。
やけに誘うのが上手かったが、やはり普段からやっているのだろうか。
やがて、私達は目的地の近くにたどり着く。
だが、辺りには何もない。
不審に思った葵が言う。
「もしかして、夜子さんの占い外れちゃった? 」
「え? そんな筈は……、だって夜子さんが占い外すことなんてないでしょ? 」
「時々外してたよ? 」
私の前で占いを行う時の夜子さんは百発百中。どんな時でも外さなかった。
葵の言葉に疑問を感じながらも、私は周囲を見回す。
「隠密術だ」
空亡は言うやいなや、何も無い空間に斬撃を飛ばした。
それは金属音を立てて弾かれ、徐々にそいつが姿を現す。
スキンヘッドの大男と、狩衣の痩せた男。
空亡の顔色が変わった。
「おい、何でお前たちが一緒にいる? 道満、晴明」
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