第50話 神亡
空亡の莫大な妖力が充満していく。女郎蜘蛛達はそれに耐えきれずに、次々と押しつぶされ圧死していった。
だが、地中から湧く蜘蛛は止まらない。
「なんで女郎蜘蛛が増えてんだ」
空亡は現れる女郎蜘蛛を片っ端から殴りつけ、排除していくが、ゴキブリのように出てくる蜘蛛の量産スピードに敵わない。
「“万世一斬”! 」
大太刀が蜘蛛を薙ぎ払っていく。不意打ちであれば、彼女達も霊力を吸収することはできない。
今川は片手で印を結びつつ、莉子達に指示を出した。
「こいつら、霊術で量産されとる! 多分、あの男の術や! こいつらはうちらに任せて、莉子ちゃん達はあの男を! 」
莉子はうなづいて、男の方へと走る。
華には麗姫が応急処置として治癒術をかけている。しかし、外からの治療では限界がある。
早くあの首輪から解き放たなければならない。
「調子に乗りやがって! “千夜影狼”! 」
嘉則の無数の分身が彼の影から分離していく。数十の分身は、一斉に莉子と空亡に襲いかかった!
「“常世迦具土”」
先程と同様、空亡は両の手を合わせ、それを合図に彼の妖力が付近に解き放たれる。
妖力で潰されていく分身の中、嘉則だけはそれを耐えていた。
――空間を圧縮する技か!?
彼の結界は空亡の妖力を遮っている。
嘉則は『常世迦具土』を空間ごと敵を圧縮する技だと分析した。
――ならば、結界さえ張っておけば……!
嘉則は分身にも同様の術を張り、空亡の技を無効化しようと試みた。
彼の背後に空亡が回り込む。
影の相手を莉子に任せ、自分が突撃した。
――速い! 馬鹿な、さっきのスピードの比ではない!
空亡の回し蹴りを、嘉則は体を後ろに逸らしてかわした。
蹴りの風圧だけで背後にあった森が消し飛ぶ。
「そう緊張するなよ」
体勢を立て直し、向き直った彼の耳元で空亡が囁く。
次いで鳩尾に拳が入った。
「ごほっ! 」
口から大量の血を吐きながら、空亡にもたれ掛かるようにして倒れる。
「どうせお前は死ぬんだ」
頭を鷲掴みにされ、顔を地面に叩きつけられる。硬い大地が割れた。
「カジュアルでいこうぜ」
空亡を蹴り飛ばして、1度距離を取る。
頭から垂れてくる赤いものを無造作に拭い払って、嘉則は次の術の発動を急いだ。
「させるかぁ! 」
右手で印を結ぼうとした刹那、顔面に拳が叩き込まれる。顔が変形して、そのまま巨木にぶつかった。
折れ曲がり倒れる木の音を聞きながらも、彼の口元には笑みが浮かぶ。
「来い……大蛇! 」
大地を裂いて出る巨大な蛇。まさしく、空亡が倒した大蛇だった。
「あの蛇は殺したはず! 」
「ちょっと空亡! あんた手加減したんじゃないでしょうね! 」
「する訳ないだろ! なんかの術に決まってる! 」
2人が言い合いをする間に、大蛇は口を開き、火炎を発射した。
「“幽世”! 」
空亡がそれを異次元に飛ばす。
だが、大蛇の首は1つではなかった。地面から1本、また1本と首が生えてくる。
合計で9つの首が、そこに現れた。
「大蛇はヒュドラと八岐大蛇の合成生物だ。首は8つだけじゃないのさ」
嘉則は大蛇の頭に飛び乗って、戦場を見下ろした。
首が1本でも残っていれば、そこから再生できるのだ。
「くそ、めんどくせぇ! しかもあの蛇、さっきよりも強くなってやがる! 」
大蛇が噛み付いてくるのを、空に飛び上がって避けた2人は、その化け物と対峙した。
――俺の妖力を吸収しやがったか!
大蛇は空亡の『常世迦具土』によって発生した妖力を食って、さらにパワーアップしていた。
「“竜骨”! 」
莉子の全力の拳も、その厚い皮に阻まれて通用しない。
反撃の炎のブレスを、空亡は彼女の盾になることで防いだ。
「空亡、傷が……」
火傷は大部分は治癒したが、腕に傷跡が残る。彼の治癒術をもってしても再生しきれない程、大蛇の妖力は強大だった。
その大口を広げ、2人を捕食しようと噛み付く。
莉子と空亡はそれを何とかしのぎつつも、次なる策を考えていた。
「あっ! そうだ、空亡! 」
思い出したように莉子が空亡を呼ぶ。
「なんだ! 今食われないようにするので忙しいぞ! 」
「夜子さんから貰った亡雫、まだ取り込んでないでしょ! 」
空亡は夜子から託された亡雫を「何が起こるか分からない」と言って使わなかった。
取り込めば彼の力は格段に向上する。
「だが、もし暴走でもすれば……」
「このままじゃどの道死ぬわよ! 」
四の五の言っていられる状況では無かった。莉子は懐から亡雫の欠片を取り出して、空亡に向かって放り投げる。
彼は一瞬の逡巡の後、それを自らの心臓に突き立てる。
腕ごと自分の体の中に押し込んで、無理やり吸収していく。
経口摂取するよりも、こちらの方が早く確実だ。
彼の動きが止まったのを見て、大蛇が空亡を飲み込む。
だが――
「意外と、なんでもないもんだな」
――その口を破裂させ、内側から彼は現れる。
妖力量は明らかに増えていた。
「“
彼の手には、1振りの刀が持たれていた。
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