第30話 仲間
『
私達は麗姫のその言葉を頼りに、時と華という九尾狐の子供の家へと向かっていた。
丁度、山の中腹まで来たあたりで、息を切らしながら上り坂を行く葵の耳にかけた無線に、突如入電があった。
「もしもし? 」
「やっと繋がった。葵、無線の電源切りっぱなしにしてたでしょ」
耳に入るのは女性の声。
私と空亡も足を止める。
「ごめん、ごめん
私たちにも聞こえるよう音量を大きくしているのか、無線からため息が聞こえる。
742.3650の周波数の向こう側のいる女性が、頭に手を当てる姿が容易に想像できた。
『私も、連絡係としてこの任務に参加することになったわ。以後、このようなことは無いように』
怒気を孕んだ冷静な声に、葵は顔を白くしながら、反射的に首を縦にふる。
『夜子さんから新しい情報よ。京都に今川さんと西郷さんが派遣されたって』
「
『はい。分かっていると思うけど、超がつく手練よ。用心して』
要件だけを簡潔に伝え、美緒は無線を切った。
「で、その明菜と拓真ってどんな人なの? 」
葵の顔を見ながら尋ねる。
聞こえた内容によれば、新たに2人の討魔庁職員が派遣されたようだ。
口ぶりから察するに味方ではない。
「特域殲魔課の巫女と祓魔師。2人とも同期なの」
そう言う彼女の顔は曇っていた。
討魔庁も亡雫を狙っているし、私の心臓も同じく狙っている。
彼らも上層部からの命令で動いている以上、接触すれば、いくら友達とはいえ交戦は避けられない。
「明菜ちゃんは、式神を扱うことに長けてる」
「私と空亡みたいな?」
「ううん。明菜ちゃんが契約してるのは妖怪じゃなくて霊体。リコちゃんみたいに、自分が妖怪の影響受けたり、力を共有したりは出来ないよ」
どうやら式神にも種類があるらしい。
彼女は続けた。
「拓真くんは、幻惑術の達人。彼の幻惑術を見破るのは至難の業だよ。霊術が使えたとしてもね」
通常、幻惑術は霊術を使える者には通用しない。
効果が強力な反面、解除も容易であるのが常だ。
それが私達にも効くとなると、少し厄介である。
「……あの、お願いがあるんだけど」
葵は手を遊ばせながら、いかにも言いにくそうに話し始めた。
「特殲の人と戦うことになっても、その、極力殺さないで欲しいんだ。もちろん上手くいかないこともあるだろうし、私も覚悟はしてる」
葵はまだ顔を上げない。
「でも、みんなやりたくてやってる訳じゃないと思うんだ。リコちゃんや私を殺したい訳じゃない。ただ、そうしないといけないってだけで」
なおも言葉を捻りだそうとする彼女の顔が歪んでいて、いたたまれない気分になった。
「言われなくても殺したりしないわよ」
葵がパっと顔を上げる。
「友達の仲間じゃない。安心して。絶対死なせたりしない」
葵とはまだ知り合って間もない。
時々言動が気持ち悪いし、騒がしい。
それでも、この子は良い子だ。危険な任務と分かっていて私を守ってくれてるし、他人の感情というものに神経を使っている様子も時たま見られる。
今だって、自分が殺されるかもしれないのに仲間の身を案じている。
私は、その想いに応えたいと思った。
「さぁ、そうと決まれば先を急ぎましょ。その2人に亡雫取られちゃったらたまらないわ」
「う、うん! 」
隣を歩く葵は晴れ晴れとしていて、しっかり顔を上げていた。
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