第11話 家族③
私が四条家の一員となって、1年が過ぎた。
「莉子ちゃんって、すごい綺麗ですよね」
今日も3人とキャシー、一緒に夕食を食べる。
「そ、そう?……」
最近、沙羅はよく私のことを褒める。
「そうですよ。この前だって、街でアイドルのスカウト、受けてたじゃないですか」
「あんなの、みんなに声掛けてるだけじゃない? 」
つい先日のことだ。いつものように沙羅と2人で学校から帰る途中、無精髭を生やした中年の男に話しかけられた。
最初はナンパだと思っていたが、どうやら芸能事務所の社長だと言う。名刺も貰って確認した。
「絶対違いますよ! 事務所の社長自らが声掛けてくるなんて、莉子ちゃんがそれだけの逸材、ってことですよ! 」
身を乗り出すようにして沙羅が詰め寄る。
「カァーッ! そうよー莉子。貴方は美人なんだから、もっとオシャレに気を使いなさい」
お母さんが一升瓶を片手に同調してきた。
この人はかなりの酒豪で、夕食どきには毎日日本酒を1本丸ごと飲みきる。
何リットル飲んでいるのか、考えると怖くなってくるのでやめにした。
2人とも、出会った頃とはかなりイメージが違う。
「でも、私はそんな柄じゃないし」
テレビで見たことはあるが、あんなに可愛らしい動きもできないし、媚びた声も出せない。
「えぇー! 勿体ないよ! 」
「そうよそうよ! せっかく声掛けて貰ったんだから。大丈夫よ、アンチなんかついたら私が片っ端からぶっ飛ばしてやるわ! 」
「それはやめて……」
正直、興味が無い訳ではない。
ファンからの声援を受けて、多くの人に愛される姿には憧れる。
「いいじゃない。失敗したら、その時は別の道を見つければいい」
お酒の影響か、ヒックヒックとしゃっくりをしながらも、お母さんは努めて冷静に語る。
「まだ若いんだから、やりたいことやればいいのよ」
結局、私はその言葉に背中を押されて、事務所と契約を結んだ。
討魔庁には、お母さんからまた無理を言ったようで、家に来た担当者が目にクマを作っていたのを見た。
結果を言えば、その選択は概ね正解だった。
他のアイドルみたいに可愛い言動はできないが、どうやらそれが逆に受けたらしい。
お母さんの影響と元々の性格もあって、結構口も悪くなった。しかし、それも逆に受けた。
小さな箱ではあったが初ライブも実施でき、お母さんと沙羅を特等席に招待できた。ステージから、お母さんが滝のように涙を流しながらサイリウムを振るっているのが、よく見えた。
外面を取り繕った私ではなく、ありのままの自分が愛されてる気がして、すごく満たされた。
これがアイドル、“リコ”の始まりだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます