第6話 真意

「ぎゃあああああ!! 」

 酷く可愛げのない叫び声が口から飛び出る。

 ――空を、飛んでる!


 絶対に落とすまいと、キャシーを抱きしめながらも私は、高揚していた。


 風が顔に当たって、目が乾いてくる。

 でも……


「凄い! 空飛んでる! 」


 とびっきりに楽しい。


「着いたぞ。で、あいつら、どうする? 」


 私が殺した女達。自分でもどうやったのかは分からないけど、きっとあれをやったのは私だ。


「生き返らせることって、できる?」


 善意ではない。哀れみでもない。あいつらにはそんな感情は湧かない。


 ただ、あいつらのために、私が人殺しの烙印を押されるのが気に食わない。


 なんであんな奴らのために私が犯罪者にならないといけないのか。


「よし、分かった」


 空亡様は右手の人差し指と中指、2本の指を立てる。

 なんだっけ? 印、を結ぶ、だっけ?


 妖術や霊術を使う時にやる動作、らしい。本で読んだことがある。


 キィン、と耳鳴りのような音がした。ふと下を見ると、私はその異変に気づく。


「あの人たち、なんか変? 」


 先程まで騒がしかった野次馬の声が聞こえない。警官も、救急隊員も、ピクリとも動かない。


「簡単な幻惑術だよ」


 彼は印を結んでいるのとは反対の、左手を女達の死体がある方向に伸ばした。


「“黄泉帰り”」

 1言、彼がそう呟く。


 ブルーシートをかけられた遺体が、手で引っ張られたように起き上がり、付着していた血液もみるみるうちに消えていく。


 何よりの変化は彼女たちの欠損したはずの頭部であった。


 破裂した頭が、細胞分裂するみたいに生えてくるのだ。


 やがて、血にまみれ、頭が破壊された彼女たちの身体は元通りの肉体に戻っていく。


 死体となったはずの彼女たちは、担架から起き上がって、自分の足で立っている。


 その様子は糸に繋がれた人形のようで、その行動に本人の意思は感じられない。


「よし。これで終わりだ」


 空亡が1つ手を叩いた。すると、群がっていた野次馬も、蘇った女達も、警官も救急隊員も、蜘蛛の子みたいに散り出す。


「今のは……? 」

「あの女たちを生き返らせて、ついでにこの街の全員の記憶を書き換えた」


 さも簡単な事のように彼は答える。


 超常的なその能力ちからは、私の目には妖怪ではなく、神の所業のようにも映った。


「すごい……まるで神様みたい……」


 しばしの間の後彼は言った。


「神様なんかじゃないさ。俺は、だよ。お前たちが恐れる、な」


 この時、私は間違えたのだろうか。


「そっか。でも、こんなにお人好しの妖怪に会えるなんて、私は幸運だね」


 間違えたから、のだろうか。


「幸運なのは、俺の方さ」


 私は、“妖怪”という存在を甘くみていた。


 少し口の端を持ち上げた彼の表情が持つ、その真意にすら気づかないほどに。




「さぁ後片付けも済んだし、行くとしよう」

「どこに?」



「お前の家族になってくれる奴のところだよ」


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