第十七話 白の令嬢アコーニ=リアネストロ
「アコーニ=リアネストロって……確か白の令嬢のことだよね?」
「そうだ」
ザイスに尋ねると、予想通りに頷きが返ってきた。
それにやっぱりなぁと思いつつ、エル君の首筋に刻まれた蛇を見る。肌に焼き付いているみたいな模様は、赤黒くて毒々しい。
「この毒蛇はコイツの心臓目がけて伸びている筈だ。そして術者の命令通りに動いている間は口を閉じているが、命令に背けば術者の命じるがまま、蛇の牙がコイツの心臓に食い込み直接毒を注ぎ込む。するとたちまち全身に毒が回り、のたうち回って死に至る。体中から血液を噴き出してな。……この国でも、随一の惨い死術だな」
ザイスが淡々と説明する間も、エル君は苦し気な顔で胸元を握り込んでいた。
先ほど彼が言った「両方」という言葉から、恐らく彼の家族、もしくは親しい人が同じ術をかけられているのだとわかる。私を殺すしか道が無いと言ったのは、そうしないと自分もその人も殺されてしまうからだ。それも、最も惨い方法で。
……なんていうか。あれだね。
こういうの。
悪役らしいやり方っていうんだろうけど。
やっぱさ。私としてはさ。
『悪役』は、二人もいらないよね?
って思っちゃうわけですよ。
そりゃね。
ちょっと今後の事を色々考えつつ、脳内で『ラミアーヴァ帝国水物語』の登場人物をざっと並べてみた。
まず最初にくるのは主人公(ヒロイン)である。
しかし彼女についてはまだ出会っていないのでひとまず置いておく。次に敵役である悪役令嬢、つまりアルワデである私。あとヒーロー役である皇太子ナディム。
この国の皇子で第一王位継承者だけど、あの馬鹿野郎(首落されたし)もまあ今は棚上げである。
で、次に脇役キャラさん達。
小説などの人物紹介イラストで、メインとは別にちょっと小さめに描かれたりするキャラのことね。
その中でもひと際目立つ脇役が、私ことアルワデの『取り巻き』として登場する伯爵令嬢、アコーニ=リアネストロだ。エル君に毒蛇仕込んだっぽいのがこの人の事だってのはザイスが今言った通りなんだけど。
彼女については今まで微妙に違和感があったんだけど、エル君を見て合点がいったというかなんというか。
彼女の瞳はラミアーヴァ人に多い水色であるものの、長い髪は白い色をしていて、肌も同じく白磁のように透き通ってる。それ故に、彼女についたあだ名が『白の令嬢』ってやつで。
『黒の令嬢』と称されるアルワデとは対をなすキャラクターってことになってる。
だからまあ、私も最初は不思議に思っていたんだ。
黒と白、まるでオセロみたいに対照的な二人がどうして一緒にいるのかって。
それにアルワデ当人に文句をつけていた通り、彼女自身が特に行動を起こしていないにも関わらず、物語はなぜか彼女だけを悪者として結末へと進んでいくし。
だけどこの世界に来た時、なんとなく気付いた。
それはたぶんあの時聞いた『声』のおかげなんだと思う。
そう……あの時。
私に「———無様ねアルワデ。いい気味よ」と。
言ったのは、彼女だ。
やっと見えた目標に、自然と口角が上がっていく。沸き上がってきた高揚感は、対すべき標的を捉えたからこそだ。
私がアルワデとなった理由は、実は二つある。
ひとつは、私自身が私の理想とする悪役になること。
そしてもうひとつは———『アルワデ』の復讐を、果たすこと。
「よし、見えた」
ニヤリ笑って呟けば、ザイスとエル君の視線が私に向いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます