第11話


陽が落ちても湿度は少し高め。

そうなると、タープの下には虫が寄ってくる。

オイルランタンにパラフィンオイルを入れてからライターで着火する。

パラフィンオイルは高価だけど、私が使うのは虫よけ効果を含んだオイル。

別に、携帯用の虫よけも複数個設置するんだけど……

湿度が高くて焚き火は諦めたキャンプ初日。

食事が終わるまでの数時間だけのため、ランタンで虫よけをする。

焚き火のときは虫よけの植物やアロマオイルを混ぜている。

アロマオイルも身体に悪いものではなく、少量でも香りが周辺に広がって虫から守ってくれる。

さらにパラフィンオイルは白灯油と比べると煤が少なく、使用後の煤取りがラクなのだ。

ちなみに車内では電池式のランタンを使用する。

車内を煤で汚す気もなく、何かの拍子に転倒させて車のガソリンで大炎上キャンプファイヤーなどしたくもない。


ランタンをタープに引っ掛けたS字フックに吊り下げる。

縦長の大きなフックは高さもちょうど良く、折りたたみテーブルの上で料理をする私にはちょうど良い。

私のキャンプ飯はほかのキャンパーとはちょっと違う。

愛用している26センチのフライパンひとつで、料理もお菓子もつくる。

ケトルもあるけど、これでお湯を沸かしたりもする。

テーブルの横に折り畳みのキッチンチェアを置いてまな板と包丁、そして道の駅で購入したきのこを準備。


フライパンにカットしたきのこを底に敷き詰めていく。

きのこは洗わないものだけど、気になるならバケツの上にザルを載せて軽く水洗い。

水をそのままポイ捨てしていいキャンプ場もあるけど、サイトの外の地面に少量だけなら許可されていたり、樹木にかけるのを禁止してるところもある。

私はバケツに溜めて、その水をあとで食器洗いにも使っている。

水は炊事場からペットボトルに詰めて持ってきたものだ。


そしてキノコの上にカットしたキャベツやチンゲンサイ、もやしを敷き詰めて餃子を並べる。

そして取り出したるは『タンタン鍋の液体スープ』。

1袋を流し込み、蓋をしたらカセットコンロにのせて点火。

焚き火ができるときは地面に設置した焚き火台でつくるけどね。

クツクツと煮立ったら味見。

薄いなら家から持ってきたチューブの豆板醤、辛いなら牛乳を入れてタンタンみるく鍋。

まろやかにしたければゴマだれやチューブのねりゴマを追加。

会社によって辛さが違うし、食材によっては薄くなったりするから仕方がないのよね。

火を弱めて取り鉢によそう。

外で食べると、なぜか野菜を多くとれるのが不思議だ。

この美味しそうな匂いが食欲をそそるのだろう。


「いた〜だきます」


手をあわせてキャベツをひと口。

タレの辛味を味わう。

ふーふー……ふーふー…………もぐもぐ。

こういうとき、猫舌はすぐに食べられない。

今日はちょうどいい辛さになった。

野菜からの水分が少ないからだと思う。

餃子を一口。

煮込みすぎたら餃子が崩れるじゃないか?

別にいいでしょう?

そのためのなのだから。

お鍋のときはレモン酎ハイが美味しいけど、ここは家ではないため飲酒はしない。

それに辛い鍋のときは炭酸系だと辛さが倍に感じる。

味を邪魔しない、冷たいペットボトルのお茶が一番!



あちらこちらからいい匂いが漂っている。

美味しそうな風にのって、どこからか大きな声も届いてきた。

「ああ、始まった」としか思えないのはだからだ。


どこかのサイトに「美味しそうな匂いですね」と寄っていくバカが出没したのだろう。

連休初日には、サイトの誰かが被害に遭う犠牲になるのだ。

そしてこの騒ぎは、キャンプ初心者に自粛を促すいいお手本になる。


サイトで区切られているこの場所は、けっして自由オープンではないことを。

個々で過ごす時間の邪魔をする行為は、許されることではないことを。

『キャンプ場で出会いを求める』などというものは創作世界のお話で、許された施設以外では最低限の挨拶以外はマナー違反になるということを。


翌日になると、炊事場や中央広場のマルシェに暗い表情のキャンパーが姿を現す。

追放を目の当たりにして、改めて自身の行いが正しいのか分からなくなるからだろう。


「あっ、いい匂〜い」

「私たちも美味しいご飯が作れるようになりたいね」

「今日はなんだっけ?」

「インスタントラーメン」

「さすがに今から料理はムリっしょ」

「明日からの気合いに期待しよっ」

「とりあえず、朝はパンだね」


サイト横の坂を下っていく女性たちの声。

管理棟でシャワーを浴びてきたのだろうか。


インスタントラーメンでもカップ麺でも、具材をアレンジすればいいと思うけどね。

鍋でもフライパンでも。

ラーメンを入れて水を入れて火にかける。

具材を増やすなら麺を半分にしてもいいけど、水は表示より少し多め。

蒸気で消える分があるからね。

カップ麺の容器をそのまま計量カップがわりにつかう。

麺がない分、線の位置まで水を入れて鍋に注げば結構良い分量にはなる。

袋で販売されているカット野菜やカットきのこも入れて、麺が好みの柔らかさになったら粉末スープを入れて出来上がり。

野菜やきのこを先に炒めてから麺と水を入れてもいいけどね。

バターで炒めればコクも出るし。

ウインナーを1、2本入れてもいいし。


スーパーで購入した安い袋入りのうどんでも、肉団子を2個3個。

1パックの輪切りのネギをいれて生卵をポトン。

胃袋に余裕のある場合は、うどんを茹でている間に薄切り肉をオリーブオイルで炒めて、焼き肉用のタレで甘辛く味をつけたら、器に移したうどんにオン。

肉うどんの出来上がり。


麺つゆも顆粒だしも(焼き肉用のタレも)、家で使っている調味料はキャンプでも必須です。

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