第12話
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食後は食器などの汚れをクッキングペーパーで落として、ウエットティッシュで油分を拭き取る。
そして、食器を水の入ったバケツに浸けて炊事場へ。
スポンジと自然に優しい洗剤を入れたビニールバッグも忘れずに。
しまえるものは車内にしまってからサイトを離れる。
炊事場で洗い終わったら、またバケツに入れて来た道を帰る。
洗剤やスポンジを置いているキャンプ場もあるけど、連休のときは自分のと他人様の物の区別がつかないのか。
設置された備品をパクるにわかキャンパーもいるため、撤去されていることはよくある。
そのためいつも持参するのが正しい。
そして聞こえる「使い終わったら貸して〜」の声。
お断りである。
管理棟で販売しているんだから、ちょっくら走って買ってこい。
こういう迷惑な連中は、翌日には大人しくなる。
夜間に追放処分でいなくなっているか、目撃した職員に注意されて追放寸前で監視下に置かれているか。
大抵は何かやらかして前者の処分を受け、私の記憶から消去されている。
キャンプ場の消灯は、敷地内の灯りが消される時刻。
そのあとは自前のランプでトイレに行ったりする。
その移動でキャアキャア騒げば「さようなら〜」となる。
……たまに肝試しを始めるバキャンパーもいて、参加者全員仲良く夜間に追放される。
こうして、喧しかった初日は過ぎ去り、翌日からは静かになる。
連休二日目からキャンプをする人もいる。
バキャンパーの出没は連休初日か連休前夜に現れる。
そんな連中が
朝はみんなそれぞれだ。
自転車を積んできた人は、サイクリングで喫茶店へと向かう。
私を含めて手動や電動の豆挽きでコーヒーを淹れる者。
来る途中のコンビニや中央広場で購入した菓子パンや惣菜パンで済ます者。
「それで。ここは朝っぱらから何を食ってるんだ?」
苦笑しているのは、何度も利用していることで顔見知りとなった巡回中の管理職員。
特に驚かれることではない。
ピザトーストなだけだ。
「市販か?」
「いや、家で食パンにケチャップや玉ねぎを挟んでチーズを乗せたもんをラップとホイルで包んで持ってきた」
それをフライパンに少量の水を張り、上にクシャクシャにしてから広げたアルミホイルを敷いてパンを置いてフタをかぶせた。
それでカセットコンロを使い、蒸し焼きにしたのだ。
「いやー、昨日はバタバタしてたの報告もらったでしょ? ここに移っても入り込もうとしたバカたちもいてさ。だからフレンチトーストの下拵え、し忘れた」
保存袋で卵液に浸した食パンを持ち上げてみせると苦笑される。
キャンプ場で甘いデザートの匂いが漂うと、虫はともかく
「予定は3時のおやつ」
「巡回を強化させておく」
「お昼は明太カルボナーラ」
「……ここはキャンプ場なんだけどなぁ」
「いまさら、いまさら」
右手をヒラヒラさせると「そうだな」とため息を吐きながら同意する。
私は不便を楽しむキャンプよりも『家と変わらない過ごしかた』をモットーに楽しんでいる。
人それぞれ楽しみ方は違う。
それを邪魔しないことがキャンパーの最低限ルール。
自分の価値観を押し付ける者に対して寛容なキャンパーは数少ない。
「キャンプで甘味を楽しむな、という規則はない」
「……ハチミツは使うなよ」
「分かってるって」
屋外でハチミツを使うと、どういうわけかハチが寄ってくる。
花の蜜の匂いに寄ってくるって聞いたこともあるけど。
「虫よけ使ってんのにな〜」
「ハチに効かないのか?」
「試してみる? 効いていたとしても、虫よけ効果の外に集まるかもよ」
「…………今日は子供も多いから止めてくれ」
アロマオイルで虫よけをする私のところに職員が雑談に来るのは、少しでも香りが服に移るのを期待してのこと。
たまにアロマオイルを靴下や袖口、背中に原液1滴やスプレーを1プッシュ。
そんな日は特に気にしてもらっている。
前日にあったサイトの不法占拠や集団侵入の阻止があった以上、用心してほしいという願いもあったし。
管理棟から私のサイトへ入る道はよく見える。
職員の目があれば、テントなどしまわずに安心して過ごせるのだ。
何より、サイトの入り口は管理棟の防犯カメラの範囲内。
深夜でも見守ってもらえる、どこのサイトよりも安全な場所。
少し気にかけてもらえればそれで十分。
それがアロマオイル1滴で叶うなら安いもんだ。
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