第2話
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「久しぶり。最近はどう?」
すでに顔馴染みになった産直市場の店員を見つけて声をかける。
この先にはキャンプ場が複数ヶ所あり、行く場所は違っていても食材を買う店は決まっている。
この市場もそのうちのひとつだ。
そして私は、キャンプ場の周辺の情報は地元の人から収集する。
というのも、キャンプ場周辺や川上で雨が続いていたなどというのは、隣の県でも情報が得られないこともある。
今回は芝生の敷かれた人工的なキャンプ場のため幾らか不便ではないものの、剥き出しの地面のキャンプ場では、足下がぬかるんでいて泥をかぶる可能性もある。
木々に覆われた自然豊かな場所でも、私設の橋が流されていたり、杉などの枝葉についた雫で湿度が高かったり……
湿度が高いと、火がつかないんですよ。
キャンプ場によっては「
しっかり乾燥させたものほど、数日続いた湿り気で多少の水分を含み、雨天後のキャンプでは支障が出てくる。
「ここ数日の天気予報じゃあ、この辺って曇天か小雨が続いてるって話だったけど?」
「んー、まあ小雨っちゃあ小雨だね。山の上流と違って、こっちは傘が入らない程度で。起きたら地面が濡れていたってこともあったな」
「一応カセットコンロも持ってきたけど?」
「湿度はそれほどではないと思うけど、
「一応、着火剤代わりに松ぼっくり持って来たんだけど」
そういうと苦笑された。
松ぼっくりは
ただ、使用するには乾燥して傘が開ききったものを使う。
傘が閉じているものは水気を含んでいるため火がつきにくい。
店に着火剤を販売しているところもあり、ここの店もそうだったりする。
そのため着火剤の購入をしないと分かっての苦笑。
と言いつつ、松ぼっくりの着火剤代用をすすめたのはこの店員だ。
松ぼっくりは家の近所で拾えるため、部屋の置き物のように飾りつつ湿度計がわりに使っている。
傘の開き方で大体わかるから。
あと、湿度が高ければ松ぼっくりが水分を吸い、乾燥したら水気を室内へ出される。
笑える話、入浴後に松ぼっくりをいくつも置いておくと、換気扇を回さなくても浴室の乾燥ができてしまう。
電気代節約にもなるし、秋からは浴室で閉じた松ぼっくりを室内に置いておくと、室内が乾燥していると傘が全開する。
…………どんだけ乾燥しているんだ、って話だよね〜
⁂
今までの会話である程度の情報が得られた。
まず第一に、川の水が使えないということ。
上流で雨が降っている川は、綺麗に見えても細かい砂が混じっている。
川の水の上部を掬えばいいじゃないかって?
ノンノン、その考えは甘い。
草や葉っぱは水面を流れていく。
同じく軽い砂は水面近くを流れてくるのだ。
それを知らないキャンパーが、その水を使ってお腹を壊す。
野菜を洗う、ちょっとした汚れを洗い流す。
その程度ならお腹を壊さない。
料理に使えば、わずかながら砂が底に溜まる。
生水をそのまま飲む。
それは確実に『かなしいキャンプの記憶』となる。
下手すれば入院体験かもしれない。
「
はい、一発ドカンとお腹を下します。
腸内洗浄? 便秘解消?
それはいいですが、キャンプ場のトイレは自宅と違って詰まるので
ハッキリ言って迷惑です。
管理棟のあるキャンプ場なら、腹痛でトイレを占拠すると追い出すところもある。
「感染症予防のため、出て行ってください」ということらしい。
病院で「一時的なもので、もう大丈夫です」という診断書を貰ってくるよう言われることも。
トイレは感染しやすい場所だから、複数人の感染者が出たらキャンプ場も営業できなくなって迷惑なんだよね。
それに「キレイに使用しましょう」とは書いてあっても、トイレットペーパーが用意されていない場合がほとんど。
そのため、トイレットペーパーを持参するのは当然ですし、ほかの方に「忘れたから少し頂戴」と頼むのはマナー違反です。
ああ、キャンプ場へは『芯を抜いてぺっちゃんこにしたものを、チャック式の保存袋に入れて持っていきましょう』が基本です。
チャック式なのは、湿気でふにゃふにゃになるのを避けるためです。
……湿り気のあるトイレットペーパーでお尻を拭きたいですか?
「どうしても節約のために川の水を使いたいです」
そう仰るのでしたら、コーヒードリッパーをどうぞ。
今ではペーパーフィルターで8人用という大きなものもある。
それをドリッパーにセットして川の水を半分まで注いだら、あとは落ち切るのを待つ。
お手軽な濾過器、というところだ。
濾過した水は一度沸騰させるのを忘れずに。
白湯は料理に使えるけど、心配なら濾過を2回。
ペーパーフィルターを二重にして使う人もいる。
8人用の中に4人用をいれて濾過をするのだけど、そっちの方は時間がかかりすぎる。
キャンプで時間をかけるのは避けたいものだ。
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