第14話 おサボりクレープ②
「開店初日だし混んでるね」
電車に揺られること二十分、件のクレープ屋さんは駅の前の通りに面していた。
「それだけ期待していいってことじゃないか?」
チョークで書かれた看板に掲載されている写真は、どれもある程度ボリューミーだった。
「それは腕がなるね!!」
「いや、腕はならんだろ……」
「ならお腹かな?」
「それは生理現象だな」
「ふふっ。久しぶりに奏とゆっくり話せてるなぁ」
紗奈は楽しそうに笑った。
「そうか?」
「そうだよ、二人っきりの放課後って久しぶりじゃん」
このところ、と言っても先週はバイトの関係で紗奈とは学校でさよならだった。
「紗奈は嬉しいのか?」
もうかれこれ十年以上は一緒にいる、いい加減飽きられてもいい頃だが……
「当たり前じゃん、って……変なこと訊かないでよ……」
そう言って頬を赤らめた紗奈を、思わず異性として見てしまいそうで慌てて目を逸らした。
「悪かったな……」
二人の間の空気感がなんとも言えないものになったタイミングで、
「おっほん、二名様ですか?こちらの席へどうぞ〜」
わざとらしく咳払いした店員に招かれて入店した。
「メニューはこちらからお選びいただけますので、決まりましたらお声かけお願いいたします」
最近の飲食店にありがちなタッチパネルでの注文じゃないところがまた普段とは違うような見せに来たような気がしてよかった。
「奏、お願いがあるんだけどさ……」
メニュー表から顔を上げた紗奈が上目遣いに俺を見つめた。
こういうときはアレだ、決して甘酸っぱい理由なんかじゃなくてもっとしょうもない理由なのだ。
「なんだ?」
わかってはいるが一応問い返す、なぜなら紗奈がそれを待っているからだ。
問い返さずにいると、じぃ〜っとひたすら見つめてくるのだ。
「あのさ、二人で別々のやつ頼んでさ、ちょっと交換しようよ」
待ってましたとばかりに紗奈が提案してきた。
「単価高くないんだし二つ頼んでもいいんじゃないか?」
「もう、わかってないな〜それは違うんだよ」
そう言うと俺の答えも待たないまま
「すみません、注文いいですか〜?」
と店員を呼び寄せ、メニュー票を指差しながら注文を決めてしまった。
「ところでさ、最近困ってることとかない?」
紗奈の感と洞察力が敏感過ぎて困る……というわけにも行かず、
「特にはないな」
「つまんないな〜、例えばさ隣にいる幼馴染が可愛すぎて〜とか無いわけ?」
「自分で言うな自分で」
なぜ、紗奈がそんな質問をしてきたのかは何となく察した。
多分、俺の誕生日が近いからなのだろう。
「なら、ちゃんと考えてよ」
そう言われて一つだけ思い浮かぶものがあった。
それさえ分かれば、多分紗奈の追及も上手くかわせるような代物を―――――
「強いて言うなら乙女心ってやつを教えてくれると助かるかもしれない」
「ゲホッゲホッ!!」
そう答えると何故か紗奈はむせた。
「どうしたんだ?」
「いや、にぶちんの奏からまさか乙女心なんて言葉が出てくるとは思わなくて」
「そうか……?俺が紗奈から教われそうなことといえばそれくらいだろ?」
「成績優秀だからって失礼だなぁ〜」
紗奈は嬉しそうに目を細めると俺の手を握った。
「でも、私でいいなら教えてあげるよ」
そう言った紗奈は束の間の甘々な空気に、追い打ちをかけるクレープを差し出して来たのだった。
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