第15話 言いそびれたこと

 「何も返せないことに罪悪感を感じるなら、関係性を変えるしか無いんじゃない?」という六花の言葉が何度も頭の中を行き交っている。


 「言いそびれたなぁ……」


 昨日からお風呂の水を弄びながらどうしたものかと頭を悩ませていた。

 

 「でもあの二人がもうデキてたりしたら、恥ずかしいだけだし……」


 六花に言われて固まりかけた覚悟は、氷のように溶けかかっている。

 何しろ放課後一緒に帰る二人を目撃したばかり、声をかけようとしたけど周りの視線を気にしてそれも出来なかった。

 チクッと感じた胸の痛みの正体を私は知っている。

 

 「六花に言われなきゃ気づかないでいられたのかな」

 

 自分が気付かなかっただけど、昔に遊んでいた頃からもしかしたら奏くんのことを自分は―――――。

 少なくとも嫌いだったら何度も遊ばないはずだから、きっと憎からず思っていたのかもしれない。

 

 「馬鹿だなぁ……私」


 自嘲気味な気分になっていると、浴室に人がいたことに気付いた。


 「お姉ちゃん、奏お兄ちゃんのこと考えてたでしょ?」

 

 声の主は妹の心春で私の独り言を聞いていたらしかった。

 

 「なんでわかっちゃったのかな?」

 「だって最近お姉ちゃん、奏お兄ちゃんの名前をよく口にしてるんだもん」

 「本当に!?」

 「そうだよ、昨日もベッドで呼んでたんだよ?」

 「嘘っ!?」


 一気に頬が熱くなったのが自分でもわかった。


 「むふふ〜嘘だよ。でも奏お兄ちゃんとお姉ちゃんは仲良しでいて欲しいのは本当なの」

 

 壁越しに聞こえる心春の声はさっきまでとは打って変わって真剣そのものだった。


 「そうだね……多分大丈夫だよ」


 自分から何かアクションを起こさなければ多分、変わらないままでいられる。

 けれどもう、蓋をしてきた想いに気付いてしまった―――――多分大丈夫だよ、自分の想いを押し殺せばきっとこのまま。


 「でもね、私はお姉ちゃんが我慢しなきゃいけなのはもっと嫌」

 「心春……?」


 私の背を押してくれるのは六花だけじゃなくて心春もだった。


 「ライバルは紗奈お姉ちゃんなんでしょ?両方とも応援したいけど、やっぱり本当のお姉ちゃんに勝って欲しいの」


 心春が今まで私のして来たことを知っても応援してくれるのか、今まで自分がして来た枷のある私でも受け入れてくれるのだろうか。

 

 「……そうだね、頑張るよ!!」


 心春はきっと本心から応援してくれている。

 そんな妹に対して私は、嘘をついたままだった。

 私がウリをやっていることを奏くんは受け入れてくれた。

 でも心春にそれを話してはいない。

 そんな状態で奏くんと一緒になったとして……心春は認めてくれるのだろうか?

 いつかちゃんとそのことを心春に話して―――――いや、心春は知らないままでいいんだ。

 ごめんね、こんなお姉ちゃんで――――。

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