第13話 おサボりクレープ

 「なんかいい事あったみたいな顔してるわね」


 隣でレジに立つ深雪さんは、俺の顔をまじまじと見つめて言った。


 「そうですか?」

 「うん、この前の金曜日はなんかあったみたいな感じだったけど、それが解決したってことかしら?」


 店長といい紗奈といい、どうして女性ってのはこうも目敏いのか、最近よくそう思わされる。


 「そんなに顔に出ちゃってるんです?」

 「そりゃもう、めっちゃ出てるよ」

 「そうですか……まぁ、解決したと言えばそうですね」

 「ちなみに聞いちゃったりしても大丈夫かしら?」


 先輩たちと別れた夕方から降り出した雨のせいで夕方なのに客足は少なく店は閑散としていた。


 「……まぁ、色々ぼかしてでもいいのなら」

 「そっか、聞いて欲しくは無さそうだね」

 「やっぱり顔に出てます?」

 「うん、面倒くさそうな顔してるわ」


 そう言って深雪さんは笑った。

 はっきり言ってほぼ全部誤魔化さきゃいけないから話すのは面倒だった。

 それでも話してもいいと思ったのは、バイト先の店長だし関係を悪くしたくなかったからだ。


 「なんかすみません……」

 「それは私も同じね。せっかく優秀なバイトの子を捕まえたのに、失いたくはないもの」


 深雪さんはウィンクしてみせた。

 

 「買い被りですよ」


 人に好意的な評価をされるのは素直に嬉しい。

 でも何故かちょっと恥ずかしくもあった。


 ◆❖◇◇❖◆


 「今日の放課後って空いてたよね?」


 火曜日の帰りのSHR、紗奈は机の上に置いた鞄で私語がバレないようにしながら言ってきた。


 「空いてるけどどうしたんだ?」

 「ならちょっと付き合ってくんない?」

 「分かった」


 断る理由も無いし了承すると、紗奈は嬉しそうに微笑んだ。


 「部活は大丈夫なのか?」

 

 放課後、どことなく人目を憚る様な紗奈に尋ねると


 「サボったに決まってんじゃん」

 「レギュラー狙えそうだったのに大丈夫なのか?」


 今まで紗奈がどれだけバレーを頑張って来たのかは何となく知っていたし、レギュラー入り出来るかもしれないというのはつい先日に本人から聞いたばかりだった。


 「たまにはいいじゃん、それに一日休んだくらいで変わるような評価じゃないよ」

 「そうなのか?」

 「そうなの!!」


 うちのバレー部はそこまでの強豪という訳ではないけれど、一年生でのレギュラー入りは楽じゃないことぐらいは想像出来る。


 「なら、紗奈にとって無駄にならないような時間にしないとだな」

 「えっ……それってどういう意味……?」


 どういうわけか紗奈は頬を赤らめた。


 「どんな解釈してるかは知らんけど言葉のままだぞ?で、今日は何をするんだ?」


 二人でどっかに行くってのは割と久しぶりだった。


 「ふふっ、今日は新しいクレープ屋さんを見に行くんだよ!!」

 「この前のカフェはどうしたんだ?通いまくるとか言ってただろ?」

 「潰れましたー。何となくそうなるとは思ってたんだよね」

 「嘘つけ、この店今後めっちゃ流行るとか言ってなかったっけ?」


 ぶっちゃけてしまえば紗奈の舌はバカだった。

 飲食店巡りが好きな紗奈とはゲテモノ料理の店に至るまで色んな店を回っていたが、つい先日まで女々しいとか小馬鹿にしていたクレープを食べに行くことになるとはな……。


 「それこそ、うちの学校のそばだとサボってるのがバレるんじゃないか?」

 「安心してよ、電車で二十分だから」


 隣の市だろうが食べることに関しては、フットワークが軽いらしかった―――――。

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