第9話 心を許せる友達
「あのさ……友達の話なんだけとね、笑わずに聞いてあげて欲しいの」
土曜日、駅前の喫茶店で私は唯一、心を許せる友達に昨日のことを相談しようとしていた。
「はいはい、また彩莉ちゃんの友達の話ね〜」
雑に受け流したのは、中学時代から仲の良い
うちの学校の生徒会長でもある彼女は、いつも相談相手になってくれていた。
彼女のことを考えて一度だけ、「私に近づくと六花にまで悪い噂が立っちゃうよ?」と言ったこともあったけど六花は、「言いたいやつには言わせておけばいいんだよ」と、今でも私のそばに居てくれる数少ない友達だった。
なんでも隠せずに話せる仲、それでも私は恥ずかしくて、時折友達の話だと誤魔化している。
もちろん、六花は気づいてはいるけれど何も言ってはこない。
「それで今日はどんな話なのかな?」
意を決して私は話すことにした。
「その友達さ、私と一緒でウリをやっていてね……先日、小さい頃に仲の良かった男の子と再会したんだって。その男の子は友達がウリをやっているって知っていたの」
「まさか一発ヤラせろって?」
普通だったらそうなりそうだよね、でも奏くんは違った。
彼は私のことを気遣って―――――
「それが違うんだって。その男の子は先輩の時間を買うって言ったらしいの。で、五万円で買った友達の時間にその男の子は一切そういうことをしなかったんだ」
ここまでは前置き、私は一旦話を区切った。
「ヤリたい盛りだろうに、随分と理性的な男の子なんだね」
六花は珍しそうに目を細めた。
「そうだね……。でも友達の方はさ、五万円も貰ったのに何の見返りもあげられなくってさ、男の子に迫ったんだ。でもそしたら男の子は怒って出て行っちゃったらしくて……」
私の何が行けなかったんだろう……お金の代わりに身体を許してギブアンドテイクになれると思っていた。
テクニックだって無いわけじゃないと思うし、それに喜ばせることも出来るはずだ。
でも結果は奏くんを怒らせただけだった。
「なるほどね〜。でも答えなんか既に出てるんじゃないの?」
六花はことも無さげに言った。
「どういうこと?」
そう尋ねると六花はニヤッと笑った。
「こういうのって案外、当の本人からは見えてないんだよね」
「べ、別に私の話じゃないからね!?」
「あ〜はいはい、彩莉の友達の話だったね」
誤魔化せてないことは百も承知、でもやっぱり自分のこととして話すのは恥ずかしかった。
「その男の子が彩莉の友達の時間を買った理由について彩莉は考えたことある?」
「え……っ?例えばう〜ん……」
私の気を紛らわすためだと奏くんは言っていた。
でもきっと六花が訊いてるのはそんなことじゃなくてもっと本質的なことのはず。
「答えは単純、自分の知っている素敵な先輩にウリなんてして欲しくないってことなんじゃないかな」
「じゃあどうやってギブアンドテイクになればいいの!?」
六花はフラペチーノに口をつけて一呼吸置くと、
「一般的に彼氏ってのはいつも見栄を張って彼女に奢ることが多いでしょ?」
六花が何を言わんとしているかはすぐに分かった。
「お金を貰って何も返せないことを罪悪感に感じるなら、関係性を変えるしか無いんじゃない?例えば恋愛関係とかさ」
向かいの席に座っていた六花が、グイッと顔を近づけてきた。
「その男の子のこと、嫌いじゃないんでしょ?」
「わ、私が奏くんとっ!?」
久しぶりに再会した彼は、小さい頃と変わらず真っ直ぐで優しいままだった。
引越し先も言わずに離れた後の私は寂しい想いさえ感じていた。
好きか嫌いかで言えば……多分私は奏くんのことが――――――
「って、私の友達の話だからね?」
「なら何で顔がそんなに真っ赤なんだろうね?」
「これはその……ホットコーヒーが熱くて……」
「それアイスコーヒーでしょ?」
「あっ……」
一旦落ち着こうとアイスコーヒーに口をつけても私の鼓動は高鳴ったままだった。
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