第5話 言い逃れ
「……シフト増やしたんでしょ?」
昔から遊んでる家の近くのいつもの公園で、ブランコに揺られながら紗奈は訊いてきた。
「なんのことだ?」
やっぱり紗奈には隠せないか……。
昔からそうだ、隠し事をしていても紗奈にだけはすぐにバレる。
「すっとぼけたって無駄だよ?」
そう言う紗奈の目は笑っていない。
「いやいや、すっとぼけてなんて――――」
「いるよね?」
これ以上は隠せないか……それなら重要なところだけは隠して伝えるか……。
「……確かに、増やした」
「なんで?」
どう言い繕うのが最善か……思い浮かぶのは無理のある言い訳のみだ。
本当のことを話せば、まずもって紗奈に止められるし紗奈を巻き込またくはない。
「……ほら、俺部活入ってないじゃん?」
紗奈はバレーボール部に所属したけど、俺はどれも面倒に感じて帰宅部を選んだ。
「でもさ、何かに打ち込んでみたいって思ったんだよ」
「その結果がバイトのシフトを増やすことだった……と?」
「お金が結果として返ってくるわけだから自分でもわかりやすいだろう?」
自分でも苦しいとは思いったが、紗奈は一瞬だけ訝しむような目をしたあと「ふーん」とそれ以上疑うようなことはしてこなかった。
「奏のことだから稼いだお金で先輩のこと買うとか言いそうだなって思ってたけど、そうじゃなくてよかったぁ」
なッ……やっぱり見透かされていたか!?
安堵したのも束の間、紗奈は核心を突いてきた。
「どうしたの?そんな驚いたような顔して」
やべ……顔に出てたか……。
「いや、そんな考えもあるのかと思ってさ」
あくまでもそんなことは思いつかなかった体でリアクションすると、紗奈はブランコから立ち上がって整った顔を近付けてきた。
「そんなこと、褒められたことじゃないんだから絶対しないでよね?」
じっとこちらを見つめる眼差しに、もしバレたらという緊張感と可愛い顔がすぐそこにあるというドキドキの板挟みになった。
「紗奈、顔近い……」
目線を逸らしてそう言うと、
「えっ……ひゃあっ……なんで、意識してッ……」
としどろもどろになりながら紗奈は顔を赤くした。
そして誰もいなくなった歯切れの悪い口調で、
「と、とにかくお金で彩莉ちゃんを買うような真似はしちゃダメなんだよ!?約束だからね!?」
紗奈はビシッと指差すと踵を返した。
「んじゃ、私帰るから」
「お、おう……」
なんだか締まりの悪いまま今日はお開きとなった。
◆❖◇◇❖◆
『金曜放課後空いてますか?』
その晩、彩莉先輩に送ったメッセージにはすぐに既読がついた。
『本気なの?』
『俺は本気です』
『そう……場所は何処がいい?』
『お任せします』
きっと先輩はこういう連絡を見知らぬ人とこれまで何度も交わしてきたのだろう、そう考えただけでも勝手に胸が痛くなった。
『なら、私の家に来てもらおうかな』
『先輩の家ですか……?』
『そうだよ、今の私の生活を見て欲しくって。ほら……奏くんにだけは誠実でいたいの』
その先、なんて返したらいいのか言葉に詰まった。
結局のところは『わかりました』の6文字。
『集合場所はこないだの橋で』
『はい』
先輩が『放課後の予定が埋まる』ということにどんな実感を抱いているのか、推し量ることは出来ない俺もまた、先輩に対しては誠実でいようと思った。
たとえ紗奈との約束を違えたとしても――――。
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