第6話 【イラストあり】手馴れた仕草とポーカーフェイス

 うちの学校、金曜は6限だから下校時間は早かった。

 15時半には下校だった。


 「今日もバイト……?」


 急いで荷物を纏めて帰ろうとする俺の腕を紗奈が引っ張った。


 「……そんなところだ」

 「そっか……なら一緒には帰れなそうだね」


 紗奈の所属するバレーボール部は体育館のコートの都合で金曜日は練習がなかった。

 以前は一緒に帰っていた金曜の放課後は俺がバイトを入れたことでバラバラで帰ることになっていた。


 「ごめんな。他の女子でも捕まえて一緒に帰ってくれ」

 「なに、心配してくれてるの?」

 「当たり前だろ」

 「そっか、ありがとう。なら、また月曜の朝迎えに行くから」


 笑顔の紗奈に見送られて教室を出たところで、大きなため息が勝手に出た。

 今週に入ってもう何度目かも分からない紗奈に対しての嘘。

 紗奈のことを心配してないわけじゃないけど本音は違う。

 今日、先輩と落ち合う予定場所の橋は紗奈も通るところだったことを今思い出したのだ。

 積み重ねた嘘を隠すためには、先輩と一緒にいるところを見られるわけには行かない。

 だから友達と帰ってくれというのは、時間稼ぎをしてくれというのが本心だった。

 もう少し上手くやらないとな――――そんなことを考えて歩いているうちに待ち合わせ場所についた。

 

 「早く行きたそうな顔してるね」


 そう声をかけてきたのは、先日同様に橋の欄干に背を預けていた先輩だった。


 「顔に出てましたか?」

 「紗奈ちゃんに嘘でもついてきたのかな?」

 「お察しの通りです」

 「それは申し訳ないことしたね」

 「いえ、俺の希望で先輩の時間を買うんですから」

 

 会話が一段落したところで、先輩は俺の手をとった。


 「早く行こっか」


 いつもこうやって先輩は見知らぬ人の手をとっているのだろうか……。

 聞こうとしてもそれを知ってどうする?という自問自答と、仮にも答えがだったときどんな反応をしていいのかが分からない。


 「どうしたの?」

 「いや、なんでもないです。行きましょう」

 

 なんでもないわけ無いだろうがッ……自分を押し隠す自分に苛立ちを感じながら、それすらもポーカーフェイスで隠して歩き出した。


 ◆❖◇◇❖◆


 「あそこにいるのって奏くんじゃない?」


 隣を歩いていた胡桃くるみが、橋の方を指さした。

 指先の示す方向へと目線を向けるとそこには確かに奏みたいな男子がいた。


 「でもあの手を繋いでる女子って誰なんだろう……」

 

 胡桃の独り言じみた疑問に私の足は勝手に止まった。


 「どうしたの?」

 「……きっと気の所為なんじゃないかな?奏の周りに浮いた話なんて無いはずだもん」

 「でもさっきあそこに……あれ、見間違いだったかな?」


 小首を傾げる胡桃の先、橋の上の街灯のところにいた二人組の姿はもうなかった。


 「多分そうだよ、奏はバイトに行ってるはずだもん……」


 見間違いだと思いたいのは自分自身、あれはきっと奏だった。

 そうはわかっていても認めたくない事実だった。

 なぜなら私は奏が好きだから―――――。

 ねぇ、奏……奏は幼馴染の私に嘘なんてついたりしないよね?

 答えのない自問自答、不安さだけが渦巻いた。



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 †お知らせ†

 

 曽根崎彩莉のイラストを近況ノートに掲載しておきますのでご覧下さい。

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