第3話 朝の一コマ
「朝だぞ〜」
ゆっさゆっさと身体を揺すられて目を覚ますと、そこには紗奈がいた。
「集合時間になっても来ないから起こしに来ちゃった」
「悪いな……って、今何時だ?」
遅刻するんじゃないかと、ヒヤヒヤしながら時計を見ると七時四十分だった。
いつも乗っている電車は、もう駅を出てしまっていた。
「紗奈は先に行っててくれ」
とりあえず紗奈の前で着替えるのは気が引けるのでそう言うと紗奈はニヤニヤしていた。
「どうしたんだよ、早く行ってくれよ」
「幼馴染の前で着替えるのがそんなに恥ずかしい?」
「あぁそうだよ、ってかこのままだとお前も遅れるぞ」
そう返すと紗奈は、大爆笑した。
「馬鹿じゃん、日付見てみ?」
言われるがままにデジタル時計の日付を見ると今日は土曜日だった。
「くっそ、紛らわしいなぁ」
もう笑うしかなくてつられて一頻り笑ったところで、なんで紗奈がそんなことをしたのかがわかった気がした。
「教えてよ、昨日先輩に聞きに行ったんでしょ?」
やっぱりそうだよな。
ある程度、気分的に明るい状態でないと最後まで話せない話題だもんな。
やっぱりそういう気遣いが出来る紗奈は精神的に大人っぽいんだな。
「昨日聞きに行くとは言ってないのによく分かったな」
「あの顔見ればわかるに決まってんじゃん。幼馴染の観察力舐めすぎじゃない?それに放課後すぐいなくなってたしね?」
「めっちゃ俺のこと、見てるんだな」
やられたままじゃ、気がすまないのでちょっと反撃することにした。
「べ、別にそういうわけじゃなし?」
「お、なんか歯切れ悪くないか?」
「うるさい、早く話してよ」
何故か、こっちまで恥ずかしくなって来たしこの辺でやめておくか……。
「そうだな。結論から言えば彩莉先輩は――――」
昨日聞いた話を全て話すことにした。
◆❖◇◇❖◆
「そっか……やっぱりそうだったんだね……」
どんな気持ちで今の境遇に先輩が抗っているのかを俺たちに推し量ることは出来ない。
「私たちに力になれることはあるのかな……」
うかない顔で考えを巡らす紗奈はしかし、結論を出せずにいた。
それもそのはず、俺だって馬鹿げた答えしか出せなかったのだから。
勿論、「先輩を買う」なんてことを言おうものなら紗奈は止めてくるに決まっている。
だから根本的な解決にもその場しのぎにもならない俺の答えは、伏せたままにした。
別に疚しいことだとは思わないし。
「昨日一晩考えた。で、時間は足りなかった」
その結果が今朝の寝坊だった。
「ふふっ、それで私に騙されちゃったんだ?」
「あぁ、随分手の込んだ嫌がらせだったんでな」
そう言うと紗奈は笑ってくれた。
思い悩む顔じゃなくて、やっぱり紗奈には笑顔が良く似合う。
だからこれ以上、この問題について紗奈は悩まなくてもいいんだよ。
昔から親しい人のためなら自己犠牲を厭わない、そんな節が紗奈にはあった。
こんな泥舟じみた問題で自己犠牲の先に導き出した答えなんかが、ろくなものじゃないことは容易に想像がつく。
だから、そう願わずにはいられなかった。
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