第83話 夏の日に
刺すような夏の日差しの中、マクミランは「ポッド・ゴッド」に帰ってきた。
朝から出向いていたのは、ユージが仕切る畑では無くて、それよりも北にあるマックという豚人種族が取り仕切る畑だ。
こちらからもフルーツを仕入れようと考えていたのだが、今までは色よい返事が貰えなかったのだ。
だが新酒の魔力と、パシャが巨船に使用した伸縮性のある布を用いたガラスハウス――その布は透明にも出来た――をプレゼンしたところ、ようやく前向きな返事を貰えたところだ。
もちろんこれから先も問題は起こるだろうが、一歩前進したことは間違いない。
マクミランはそう決意を新たにして、乗せて貰っていた荷車から降りる。
フルーツの搬入はひっきりなしに行われているので、移動に困ることはないが「ダイモスⅡ」が好きに使える移動用の荷車があった方が良いのかもしれないとマクミランは考えていた。
行き先がフルーツ農園ばかりではないのだから。
これから先、ブドウの収穫が始まれば荷車もそちらが優先になるだろう。
パシャの改良荷車のおかげで確かに素早く対応出来るのだが……
ふと違和感を感じて、マクミランは首を捻った。
「よう! やっと会えた!」
そんなマクミランに声をかける者がいた。眠そうな眼差しのデュークだった。
「おや、『クーロン・ベイ』でのお勤めは終わりましたか」
「お勤め……確かにそんな感じだなぁ」
全身から疲れを滲ませながらデュークが頭を掻く。
デュークは変革を迎えた「クーロン・ベイ」に留まることを要求されていたのである。
今更、という感が漂ってはいるがデュークの武名にあやかりたい、という意図は見え見えだった。
いや、「クーロン・ベイ」――シュンには最初から隠す意図はなかったのだろう。
衆人の前でしっかりと頭を下げて、デュークの協力を要請したのである。
そしてデュークも、自分の名で集めた農民達の解散についてはしっかり後始末をするつもりだった。となると、ごねるよりは話が早くなることは間違いない。
そのついでに衛兵達の綱紀粛正に名前を利用されるぐらいは、何ほどのこともなかったのである。
ただ問題は――
「優先して回して貰ってたみたいだけどなぁ、新酒が足りないんだよ。『クーロン・ベイ』にちゃんと回してるか?」
酒の不足だ。特に大人気になった新酒については「クーロン・ベイ」ではプレミア扱いになりつつある。
マクミランは表情を変えないまま、街の外れへと目を向けた。
「製造が追いつかないんですよ。あれを見て下さい」
「何だ? でっかな樽?」
見上げるほどの樽。いやそれは牧場で見られるサイロと言った方が近いのだろう。
それぐらいの規模で新酒を造っていると説明されたデュークは、眩しそうに目を細めた。
「……やっぱり、何かおかしい気がするなぁ」
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